「冷笑の目」を持ちすぎるな
竹下 目標を熱く語れない理由には「照れ」もありますよね。麦わら帽子をかぶって、無邪気に「海賊王になる!」と言うには勇気が必要です。怖いからロジックで武装してしまうという側面もあるのではないでしょうか。
坂井 おっしゃる通りです。でも面白いのが、シンプルな目標を掲げている組織の方が伸びていることが多い。「業界の中で令和を代表する会社になる」という目標を語ると、「何それ?」という冷笑の対象になってしまうこともある。けれども、中の人たちが本気でそれを信じていれば、具体的な事業計画に落とし込めていたりする。自分の中に「冷笑の目」を持ちすぎない方がいいんです。自分の素直な感情や欲望、衝動を抑え込む必要はない。
よく考えたら、この「つまらなそうに海賊王を目指すルフィ」というのは、いろいろな人に「海賊王にはなれないから」と言われ続けた人なのかもしれません。そしてこのように言われてきた人は、同じように夢を描けずに人を呪い、連鎖していくのかもしれないですね。
「バトン感覚」が「今だけ・自分だけ」を防ぐ
竹下 「今だけ・自分だけ思考」を脱するための方法として、「己の肉体を超えた目標を立てよ」ということもおっしゃっています。ただ、人間には生存本能があるので、「今だけ・自分だけ」になってしまうものだと思うんですよね。
坂井 これはゆとりくん(株式会社yutori代表取締役社長・片石貴展さん)との対談からも着想を得ているのですが、未来のことを考えられる人というのは、共通して「過去のこと」を深く考えている人なんです。
以前、私の研修プログラムを導入してくださっている北海道大学の方が「北海道大学は、クラーク博士や新渡戸稲造先生といった先人たちが一生懸命に作り、大きくしてきた大学である。だからこそ、自分たちの代がその社会的意義や地域貢献のバトンを次の世代へ渡す」とおっしゃっていました。
また、ある民間企業では株価が低迷しているのにやる気を持って働いている50代の方がいて、理由を尋ねると「自分を30年間育ててくれた会社だし、尊敬する先輩たちが残してくれた事業のおかげで自分は給料をもらって家族を養うことができた。だからこのバトンを渡すことが自分の役割だと認識している」と。逆に、自分が受けている恩恵や渡されているバトンに無自覚になると、未来のことを考えなくなってしまうということです。
『チ。―地球の運動について―』という漫画も、自分の代で地動説を証明できずとも次世代に託していくという「己の肉体を超える」物語ですし、『ONE PIECE』の根底にあるのも「Dの意志」をめぐるバトンの物語ですよね。この「バトン感覚」が「今だけ・自分だけ思考」に抗うためには大切です。

