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―― 一旦は進路についての決断を先延ばしにしたものの、どこかで決断をしなくてはいけなかったのではないでしょうか。

川上 そうですね、3年生になるといよいよ専攻を決めないといけません。でも、ここでも主体的にえらぶというよりは、消去法です。理科2類からは農学科や獣医学科、林学科などに進むのですが、農学はあまり興味がなかったし、獣医学は動物が苦手なので無理……と消去していった結果、林学科に進みました。

小笠原諸島母島のメグロ ©:時事通信社

 林学科に入ってからは鳥類学者の樋口広芳先生の指導を受けることになったのですが、先生は過去に小笠原でメグロという鳥の研究をされていた。それで、「10年ぐらい経っているから、変化を調査するといい。幸い予算もあるし、行きたまえ」と言ってくれて。

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 もちろん、もともと「これがしたい」というテーマがあるわけではなかったので、いかにも「メグロですね。私も研究したいと思っていました」という顔をして、小笠原に行くことにしました。学生ってだいたいそんなもんですよね。

小笠原諸島で鳥類研究のおもしろさに目覚めた

川上 そうやってだましだまし研究を始めたのですが、始めてみたらすごくおもしろかったです。小笠原諸島の場合、生物相が島ごとに異なります。こっちの島にはいない生物があっちの島にはいたり、近縁種がこっちの島にはいたり。その点が僕にとっては興味深くて。

 メグロの場合、30以上ある小笠原諸島の中で3つの島にしか生息してないんです。メグロが飛んでいけるような約800メートルの距離の場所に、メグロが住める環境がある別の島があるにもかかわらず、です。

 

―― えっ、どうして移動しないのでしょう。

川上 まず、島という環境では、移動性が少なくなる方向性で進化をしやすいと言われています。長距離移動をする性質を持つ個体と、あまり移動しない性質を持つ個体がいたら、前者は島から出てしまう。あまり移動しない性質の個体のほうが定着し、同様の性質を持った子孫を残しやすいのでしょう。

―― なるほど。

川上 あとは、小笠原諸島にはメグロの捕食者や競争相手が少ないので、メグロ対メグロの競争が激しくなります。そうすると、近くに留まって、その地域の食べ物のある場所とか、隠れる場所とかをよく知っている個体のほうが生存に有利なんでしょうね。

「ハトは3秒で忘れる」は悪口か

――「NHK夏休み子ども科学相談」で「ハトは3秒で忘れるのは本当か」という質問に対して、「それは悪口です」という回答が話題を呼びました。

川上 やっぱり、それは悪口ですね(笑)。ただ、あれはすごく面白い質問なんですよ。英語でも“bird brain(鳥の脳)”という言葉が悪口として存在してて、世界中で鳥ってバカだと思われている。

 でも、実際には鳥は学習能力も非常に高いですし、すごく苦労している生物群だと僕は思っているんです。

 

――「苦労」というと?

川上 「空を飛ぶ」という方向を選んでしまったがゆえの苦労とでも言うのでしょうか。

 空を飛べる体を持つには、地上での性能はやはり落ちてしまいます。他にも、体のいろいろな部分を軽くしなくちゃいけなかったり、脂肪をたくさん蓄えることができなかったり、ハンデを抱えることになるわけです。

 そんなハンデを抱えながらも、食べ物を探したり、捕食者から逃げたりして生き残ってきているということは、そこに十分な頭の良さがあると思っています。