岐阜県関市の大禅寺住職、根本一徹さんのスマホには、全国の自殺志願者からSOSが毎日届く。「死にたいです」「もう終わりにしたい」――エミー賞を受賞した気鋭のアメリカ人女性監督、ラナ・ウィルソンは、「ニューヨーカー」誌で特集された根本さんの自殺防止活動に興味を持ち、3年半にわたって撮影を敢行。ドキュメンタリー映画『いのちの深呼吸』が完成した。
ニューヨークをはじめ世界各国の映画祭では、しばらく拍手が鳴りやまなかった。
「宗教も文化も違う人たちがこんなにも熱く受け入れてくれたことに驚きました」
自殺念慮者から切羽詰った電話を受けると、根本さんはバイクにまたがり、相談者のもとに駆けつける。睡眠不足と過労、ストレスで心臓の血管は限界だと医師は告げる。そこまで根本さんを駆り立てるものはいったい何なのか。
「人間は、普通は上っ面で生きています。お互い深いところには立ち入らないのがマナーで、親しい友人にも重い話をしてはいけない。そんなふうに思っている人が多いですよね。でも、彼らとは腹の底から語り合い、本心をぶつけ合える。私自身、生きるって何だろうとずっと考え続けていて、答えを知りたいんです」
根本さんが「自殺」や「死」から離れられないのにはもう1つ理由があった。若い頃、いつも明るく優しかった叔父や、同級生、バンド仲間の3人を自殺で失っていたのだ。
「みんな私にとって憧れの素敵な人でした。その時に彼らの話を聞けなかったという気持ちはずっと残っています」