まもなくしてUR賃貸に引っ越しをした。ペット共生を条件に探したため、ペット飼育もできる。念願の子犬を飼う夢がようやくかないそうだ。あとは愛着のあるマンションを売るだけ。じつは住まいながらの売却活動は、幾度となく内見があったものの成約にはつながらなかった。信子さんが引っ越し空室にすることで売れやすくなるかもと期待している。

 空き部屋になってから、3組のご家族が内見にいらした。いずれも立地、価格ともに良いというが、内装が古いこと、旧耐震なのが、気になるという。

 なんだか、いままでの生活、人生をも否定されたようでショックだ。その後も複数内見に来たが、同じような反応である。

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©mapo/イメージマート

買い取り専門の不動産業者

 信子さんが途方にくれていたある日、買い取りを専門とする不動産業者から現在の売値から1000万円ほど値引きをした金額で買い取りしたいという連絡があった。さすがに1000万円は難しいというと、800万円引きならいかがでしょうか? という。市場価格と比較すると25%ほど安いそうだが、売れないよりは良いと思い不動産業者に売ることにした。

 契約が済み引き渡し日の前日、一人で自宅マンションを訪れた。こんなに広かったかな。壁のキズすら思い出がこみ上げてくる。この家でたくさんの幸せがあったんだな。ありがとうと心でつぶやき、今度は声に出して「ありがとうございました!」と深々と一礼をして、そっとドアを閉めた。これが最後の鍵閉めだ。

 数ヵ月後……。フルリノベーションされたマンションの売却情報を見かけた。売却した価格より1000万円以上高い価格で売りにだされていた。複雑な思いがした一方で、見違えるほどキレイになったわが家が誇らしくもあった。

 結局、売却するのに8ヵ月も要したのだ。時間はかかったが、無事に住み替えできホッとしている。隣の駅とはいえ、生活環境はそれほど変わらない。習い事も病院もいままで通り通えている。

 いまは、息子家族に買ってもらったミニチュアダックスフンド(生後半年)のケンちゃんと、楽しい毎日を送っている。