長年連れ添った最愛の夫が突然、心筋梗塞で帰らぬ人となった。悲しみに暮れる日々を送る和田信子さん(仮名)を見かねた息子夫婦は、「お母さん、犬とか飼うのどうかな?」と提案する。
子犬との新しい生活を想像し、ようやく笑顔を取り戻しかけた信子さんだったが、長年住み慣れた分譲マンションは「ペット飼育禁止」の物件だった。なんとかルールを変えようと理事会に提案し、管理組合でアンケートを実施すると、80%以上が「賛成」や「どちらでもいい」と回答。これなら飼える、と希望を胸に総会へ出席した信子さんだったが……。
ここでは、住宅ジャーナリスト・マンショントレンド評論家の日下部理絵氏による著書『60歳からのマンション学』(講談社+α新書)の一部を抜粋。共同住宅のルールを変更する難しさと、シニア女性の切実な悩みを紹介する。
◆◆◆
夫の急死
都内のマンションに住む和田信子さん(仮名)は、25歳の時に友人の紹介で知り合った5歳年上の賢治さんと恋に落ち、信子さん27歳、賢治さん32歳の時に結婚をした。結婚の際に両家のすすめもあり、いまも住んでいるマンションを新築で購入した。購入にあたっては、両家が結婚祝いにと頭金を出してくれ、とてもありがたかったのを覚えている。
新居に引っ越し後、まもなく妊娠が判明し、男の子が誕生した。正しく明るく育って欲しいという願いを込めて、正明と命名した。
そんな正明さんも44歳になる。正明さんは職場で出会った恵子さんと結婚し、小学生の男の子と女の子の子供がいる。信子さんにとっては、そりゃあもう自分の子供である正明さん以上に孫が可愛くて仕方がない。
信子さん、賢治さんご夫婦は近所の人も羨むぐらい夫婦仲が良かった。特に正明さんが、就職を機に実家マンションを出てからは、よく二人で近所のショッピングセンターに出かけたり、映画を観に行ったりした。賢治さんが定年退職してからは、バスツアーや海外旅行にもよく行ったものだ。
そんな和田さん夫婦に、悲劇が襲う。健康そのものだった賢治さんが、心筋梗塞で倒れ帰らぬ人となる。あまりにも突然過ぎて実感が湧かないにもかかわらず、葬儀の準備や生前親交があった方への連絡など慌ただしい日々が過ぎていく。
