1年経ってようやく現実を受け止めることができた

 ようやく落ち着いたある日、部屋の中を見渡すと、賢治さんの物や、思い出の品がいっぱいだ。本当に賢治さんは亡くなったのだろうか? 少し出かけているだけでは? 賢治さんの匂いが残るパジャマを抱きしめながら、「賢治さん、今日は何時に帰ってくるの? ご飯は何が食べたい?」とつぶやく。当然ながら返事はない。次から次へと溢れてくる涙。賢治さんに会いたい。賢治さんのいるところに私も行きたい。毎日泣き崩れながら、疲れて寝る日々をくる日もくる日も過ごした。

 ときおりご近所の人や賢治さんと一緒に習っていたカルチャースクールの仲間が心配し連絡をくれたり、訪ねてきたりする。他愛もない話をして帰っていくだけだが、優しさが伝わってくる。

 正明さん家族も電話や、週末になると孫を連れて頻繁に遊びにくる。ときおり、正明さんの後ろ姿が、賢治さんと重なって、切なくなることがあった。

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 賢治さんが亡くなってからまもなく1年。悲しんでも賢治さんは戻ってこない。泣いてばかりの私じゃ賢治さんは嬉しくないだろうと思えるまでになった。時間はかかったが、ようやく現実を受け止めることができたのだ。

「犬とか飼うのどうかな?」息子夫婦からの提案

 そんなある日、正明さんが「母さん、犬とか飼うのどうかな?」

「えっ? 犬?!」

「可愛いだろうし、癒やされると思うんだよね。良かったら俺と恵子でプレゼントさせてよ」

「う~ん。ちょっと考えてみるわ。ありがとう」

 信子さんの落胆ぶりを見て、正明さんと恵子さんで相談しての提案だった。猫ではなく犬を提案したのは、散歩などの外出で家にこもりっきりにならずにすむだろうと思ったからだ。

 信子さんは、突然、犬と言われて驚いたものの、子犬の動画を見たり、ペットショップに行って抱っこしたり、犬を飼っている知人に「飼うのは大変なの?」「私でも飼えるの?」と聞いたりした。何よりワクワクしている自分自身に驚きと嬉しさがこみ上げてくる。