「芦沢さんという作家自体が先入観として機能している」――「薄着の女」の構造的な巧みさ

――“問題作”とも呼ばれる「薄着の女」について、呉さんはどのようにお読みになりましたか。

:ミステリーの基本的な手法として、読者の先入観を利用して裏切るというものがあります。表題作や「代償」は作中の先入観をうまく使っているなという読み方ができました。

 でも「薄着の女」は、作中の先入観というよりも、僕個人の話として、芦沢央という作家自体が先入観として機能していたんですよ。「あ、芦沢さんがキャラクターものみたいな小説を書くんだ」という驚きが、そのまま伏線になっていて。最後の落ちを読んだときに「やられた!」ってなるんです。「芦沢さんもこういうの書くんだね」と思ってたら、「あ、なるほど、だからこうなったのね」という。

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芦沢:そうなんですよ。「芦沢さん、これどうしたの?」というのが伏線になっているんです。

:メタ的な先入観をうまくコントロールされているなと。この作品集の中に入っている意味がすごくあると感じました。

芦沢:この作品はどこに入れようかと思って、3話目に入れたんですが、どこに入れても浮く変化球なんですよ。で、「待てば無料」でもう一回「十時(ととき)」というキャラクターを出したら、一番の変化球に合わせてしまったみたいな感じです(笑)。

「立体パズル」と「待てば無料」が響き合う、独立短編集の妙

――6編の並び方についても、呉さんはかなり深く読み込んでいらっしゃいますね。

:「立体パズル」は謎が一応解けるんですけど、この作品のコアな部分って、人間のままならなさみたいなものがあって、理解しようとする側のままならなさもある。謎を解く側が解ききれないという余白が残る、不思議な読後感の話なんですよ。

 そして、同じようなテーマが「待てば無料」にもそのままあるんです。刑事が謎は解くんだけれど、肝心な部分で間違うというか、理解しきれない部分があって。

芦沢:あー、なるほど。

:だから「立体パズル」と「待てば無料」のルックというか、瞬間的な読み味は全然違うのに、裏を読むとこれは同じようなテーマが違う形で描かれているとも言えるんじゃないかなと。この二つの作品が並んでいるっていうのが、この作品集のすごい美点だと思います。

芦沢:うれしいな。でも並びの順は結構、何回か入れ替えましたよ。表題作をまず冒頭に持ってくることで、そのあとの作品を読んだときに表題作を引きずるようにしよう、という意図はありました。「投了図(とうりょうず)」は最後らしいもので締めたいというのも決まっていて、真ん中の4つをどう並べるかをガチャガチャやりました。

:結果論だとしても、やっぱりすごいなって思うんですよ。こういうのがたまたま偶然であったとしても、うまいこと組み合わさるというのは、短編をほとんど書かない人間からすると本当に羨ましい。

呉勝浩さん 撮影:文藝春秋