「お互いへの言葉は、ケンカにならないと分かっているから言える」
――読者の方から「お互いの作品で特に好きなものを教えてください」という質問が来ています。
呉:僕はやっぱり『カインは言わなかった』ですね。あとは『夜の道標』。あれはなんとも言い難い読後感で、自分には書けないなというのがすごく印象に残っています。ミステリーの部分だけ取り出せばもしかしたら近しいものを書けるかもしれないけど、あの作品にはならないな、と。
芦沢:私は呉さんの作品では『スワン』が印象的です。読んでいて「畳み方の精度も上げてきた。怖い、この人」と思った記憶があって。
あと呉さんの小説ってすごいエンタメで物語に引きずり込まれるんですけど、なぜか絶対いびつなんですよ。エンタメだったらここは書かないかなというぎりぎりのところまで踏み込んで、それをエンタメにするというところがすごく好きで。
呉:でも僕はエンタメとして書いているつもりなんですよ、実は。ずれてるんですよね(笑)。
芦沢:ゾクっとした意味で「呉臭」みたいなものが漂ってくる感じが、『おれたちの歌をうたえ』にはすごくあって。
こういうことを面と向かって言うのは、ケンカにならないって分かっているから言えるんです。今日もかなり踏み込んだことをお互い言い合うだろうとは思っていたんですが、意外に優しかった(笑)。
呉:嘘はつけないので(笑)。読んで面白かったから、ほんとに良かったです。
「短編集という形が日の目を見るきっかけに」
――最後に、今後の予定と読者の方へのメッセージをお願いします。
呉:独立短編集というものがなかなか話題になりにくい風潮がここしばらく続いていると思います。これをきっかけに、いろんな短編集にも目が向いてくれたらいいなと。そのトップランナーとして走っていらっしゃるのが芦沢さんだと思いますので、ぜひたまにはまた長編も書いていただきながら(笑)、今後ともよろしくお願いしたいなと思います。
芦沢:呉さん、今日完璧すぎて。私がホスト役のはずなのに、まったくホストをやる隙もない完璧なプレゼンをありがとうございました(笑)。
次回作は9月に『ハザードランプ』(小学館)という短編集が出ます。12月には『魂婚心中(早川書房)が文庫化します。来年は『火のないところに煙は』(新潮社)の続編と『嘘と隣人』(文藝春秋)の続編が出る予定です。未来の私がなんとかしたら出ますので、どうぞよろしくお願いします。
参加者プロフィール
芦沢央(あしざわ・よう):1984年東京生まれ。2012年『罪の余白』で野性時代フロンティア文学賞を受賞しデビュー。2023年『夜の道標』で日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)を受賞。2025年『嘘と隣人』で第173回直木賞候補。
呉勝浩(ご・かつひろ):1981年青森県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒業。2015年『道徳の時間』で第61回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。2022年『爆弾』で第167回直木賞候補、『このミステリーがすごい!』『ミステリが読みたい!』ともに2023年版第1位を獲得。
