作家生活15年目を迎える芦沢央さんの最新短編集『あなたが正しくいられたとき』(文藝春秋)の刊行を記念したオンライントークイベントが、2026年6月2日に開催されました。イベントゲストとして招かれたのは、同世代の作家・呉勝浩さん。「正義」の危うさと人間心理の複雑さを描いた6編の短編集について、構成の妙から創作の現場まで、作家同士だからこそ踏み込める話が次々と飛び出しました。
※以下の内容は『あなたが正しくいられたとき』のネタバレを含みます。
◆◆◆
「最高です。“粒ぞろい”という表現がふさわしい」
――『あなたが正しくいられたとき』、いかがでしたか?
呉:最高です。「粒ぞろい」という表現がこれほどふさわしい作品集もなかなかないのではと思いました。
表題作「あなたが正しくいられたとき」、そして2編目に「代償」があり、芦沢さんの面目躍如と言っていいクオリティーの作品が続くと思ったら、3作目に「薄着の女」が来るんです。この構成の妙というか、そこで「薄着の女」が来るんだっていう驚きがありまして。
読み終わってから振り返ると、どの作品も考えて配置されているなと感じさせるところがある。作品数があるだけにこういう配置ができたり、作品集全体にひとつのトーンを作っていけるというのが、芦沢さんの強みとしてめちゃくちゃ出ているなと思いました。
「人間の暗黒面を強調する手法がほぼ入ってない」
――呉さんは今回に合わせて、芦沢さんの前の短編集『汚れた手をそこで拭かない』も読み返したそうですね。
呉:そうなんです。芦沢さんはいわゆる“イヤミス”の書き手と評されることがありますよね。そこで、『汚れた手をそこで拭かない』を読み返したら、あの作品集にはきちんと人の嫌なところが書いてあるわけです。「あ、良かった、ちゃんと嫌だわ」と思ったんです(笑)。
そこで、『あなたが正しくいられたとき』と比べたときに、人間の暗黒面のようなものをことさら強調するという手法が今回の作品集にはほぼ入っていないんです。それがすごく気になって。
芦沢:でも私、元々「嫌味なものを書いてやろう」と思ったことはないんですよ。暗黒面を強調しようと思っても書いていなくて。そのアイデアにふさわしい物語を毎回書いているにすぎないので。嫌な気持ちになったという感想をいただくと「嫌な思いさせてごめんなあ」と思うくらいの感覚なんです(笑)。
呉:表題作「あなたが正しくいられたとき」の主人公・消防士の窪田にしても、川におぼれた元カノの娘を助けたり、その娘が虐待されていないか心配したり、いじめを止めようとしたり、やってることは全部まあまあ正しいんです。ほんとに正しいことをしているのに、ラスト、ここまで言われるのかっていう…ちょっとお姉ちゃん厳しすぎるよと(笑)!
芦沢:窪田のように、正しくいたいことって、それはそれですごく尊いことだと思うんです。否定すべきことではない上で、でも他の人とはこういうぶつかり方をすることがある、というドラマを書きたかったんですよね。

