単著未収録短編が今でも20本以上ある

――今回の作品集は、単著未収録の短編が20本以上ある中から6本を選んだとのことですね。

芦沢:そうなんです。今回6本使ったのに、まだ20本あるんですよ。使っては書き、使っては書きで。

:常に20本以上あるって、ほんとに異常ですよ(笑)。

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芦沢:短編集にまとまるビジョンが見えないものは、書いたけど出番を待つ短編になるので、なかなか一冊にならなくて。

 今作に収録する短編を選んだのは私で、「これを持ってくることができます」という形で提案しました。「正しさ」にこだわって選んだわけじゃないんですけど、このタイトルで入れてみたら、「正しさ」が読んでいくうちに変わっていく感じがあって。私はずっと正義とか正しさにこだわっているんだなと思いましたね。

――執筆中の作業について、短編と長編で書き方に違いはありますか。

芦沢:短編は大体全部見えてから書くパターンのほうが多いです。どこでひっくり返すとか、感情曲線がこうなってここでパーンってなってくるみたいなのも大体見える。プロットは提出しませんが、出してと言われたら結構完璧に出せるものが、短編は多いです。

 長編は「どうなるんでしょうかねー」という感じで書き始めています。

:僕はプロットが作れない人間なので、短編のほうがギミックだけで押し切れるところがあって、構造がぱっと思い浮かびさえすれば書いていて楽しいんですよ。長編の方は、ほんとに終わるのかな、面白くなるのかなという時間が長くて苦しい。

芦沢:わかります。一文字も書いてないって言っているとき、頭の中では数パターン全部こういうふうにやってみたいなのが見えているんですけど、どれを選ぶかが決めきれずにギリギリまで引っ張るんです。締め切りというシステムがあるおかげで「これでとりあえず行くしか」となって書き始められる。

:締め切りが背中を押してくれるわけですね(笑)。

 

一番苦戦した作品は?

:今回の収録作の中で、一番苦戦したのはどれですか。

芦沢:「代償」はオチを決めずに書き始めていたんです。作家が「これは傑作だ」と書き上げた作品が、実はウェブにありましたよと言われるという、最悪なシチュエーションを先に考えて書き始めてしまって。どうしてそんなことが起こるんだろうと自分でも疑問に思いながら書いていったので、結構不安でした。

:逆に楽しく書けた作品は?

芦沢:「薄着の女」と「待てば無料」は書いたことのないパターンでしたけど、結構面白がって書けました。「薄着の女」は競作アンソロジーとして、糸を使った密室トリックを作らなければいけないというお題があったんです。でも私にとってそのトリックはリアリティーラインが合わない。だから「このトリックを使えない私が、このお題でどう書くか」という発想で、あのオチにたどり着きました。文体というか、作風を変えて書くのは面白かったですね。

:「待てば無料」は、十時というキャラクターが出てきた時点で若干ライトな読み味なのかなと思わせるんですけど、オチはかなりしっとりしている。しかも十時が推理を外すっていう。あのバランス感覚はすごいなと思いました。

芦沢:十時と奥平がしゃべっているとふざけたノリになるんですが、オチはなかなかですよね。「待てば無料」は、『週刊文春』の「ミステリー競作 5分の迷宮」に書いたもので、原稿用紙15枚以内という解決編しか書けないくらいの短さの縛りがあったので、「薄着の女」に登場させていた十時にもう一回出てきてもらおうと思ったんです。そうしたら十時も推理を外すことになって(笑)。