人の命を救うためには、患者だけではなく、患者に近しい看護師の声に、もっと耳を傾ける必要がある、と自分に言い聞かせた。

「なんで救ったんですか」と訴える患者の娘に

医師になって4年目の冬のこと。当時勤務していた金沢医科大学氷見市民病院(富山県氷見市)で当直をしていると、明け方、「雪の中に埋まっていた」という人の受け入れ要請があった。外は前日から降り続ける雪が40センチほど積もっている。

救急搬送された高齢の男性は、低体温症で今にも心停止しそうな状況だった。身元は不明。重度の貧血で状態は悪く、上司の医師は「これはさすがに無理だ……」と諦めた。だが、医師として使命感に燃えていた水野さんは「やれるだけやってみよう」と輸血をおこない、必死で救命。すると男性は奇跡的に回復し、上司にも褒められた。

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翌日には身元が判明し、娘だという40代の女性が病院に現れる。水野さんが得意気に「お父さん、かなり危ない状態でしたが、なんとか救いましたよ」と伝えると、思いがけない言葉が返ってきた。

「なんで救ったんですか。死んでくれたらよかったのに……」

娘の口調には、怒りが込められていた。聞けば、父は家庭を顧みずに酒におぼれ、母の葬式にも出席しなかったという。母の死後、父とは別居。アルコール依存と認知症が進んだ父が、雪の中を徘徊していたのだ。

「私にも家族がいるんです。今更こんな人のためにめちゃくちゃにされたくない。好き勝手生きてきたのに、認知症になったら私が面倒見ないといけないんですか」

娘は泣きながらそう訴えたが、費用の問題などから、結局娘の家に父が同居することに決まった。

「私たちの選択は正しかったんでしょうか」

救急病院に搬送された患者の命を救うのは、医師として当たり前のことだ。だが、それが娘の生活を一変させてしまった。当時の水野さんは、医療の正義が結果的に誰かを苦しめる結果になるとは、想像もしていなかったという。

もし今、同じような患者が運ばれてきたらどうしますか、と問いかけてみた。