では、医者がやるべきことは一体なんなのだろう――。

2015年に診療所を営む父が癌で倒れたとき、初めて父の診察代行を担当した。このとき、何年も父と一緒に働いてきた看護師が診察前に教えてくれた患者の情報が、想像以上に細かくて驚いたという。

「この患者さんは息子の嫁とうまくいっていないので家族の話はNGです」
「旦那さんが今心筋梗塞で入院中で、このあとお見舞いに行くそうなので診察は短めに」

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といった具合だ。父は人間関係から悩みごとまで、あらゆることを把握して診察に活かしていた。

診察では、血圧が高い患者に「強めの降圧剤に変更しましょう」と伝えても、「大先生に測定してもらえばまた血圧は安定するはず。大先生が戻ってくるまで血圧の薬は変えないでくれ」と言われてしまう。

また、古い時代のガイドラインを感じる処方内容だった患者に、説明して最新のガイドラインの処方をすると、翌日には「胸焼けがしたから、大先生の処方に戻してくれ」と再び来院する。

「患者にとっては、正確な血圧の値やエビデンスに基づいたガイドラインよりも、何十年も毎月父に血圧を測定してもらい、父と相談しながら選択をしてきたという事実の方が大事やったんです」

父は倒れる前、「患者さんに迷惑がかかるから」と言って強い鎮静作用のある痛み止めを自分で注射し、体調よりも診察を優先していたという。患者が父との関係性にこそ信頼を置いていたことを、父は一番よく分かっていたのかもしれない。

2020年、父が亡くなると、コロナ禍で葬儀に参加できなかった地域の患者たちが沿道に100人ほど並び、父を乗せた車に向かって手を合わせた。

医療の正義が揺らいでいた水野さんが目指すべき姿が、そこにあった気がした。しかしその父からの教えが、後に水野さんを難しい決断へと導くことになる。

「末期だから家で寝とけっていうのは違う」

2023年、手の施しようがない状態になった末期癌患者の往診を依頼される。水野さんの経歴にも注目し、「誰も断らない医師」としてこれまでも何度か取材に来ていたテレビ大阪が、この患者とのやりとりを密着取材することになった。