捜査線上に浮上した「小太りの女」
彼女は小太りで20代半ば、身長は150センチ程度、パーマをかけており化粧は厚め。昼間は特に変わった様子もなかったが、閉店後の23時半過ぎ、主人が売上金を計算している姿をじっと見ており、さらに日が変わった午前1時半ごろトイレに行こうと階下に降りると、階段脇の太田の部屋から押し殺すように話す男女の声が聞こえてきた。不審に感じていたところ、彼女が部屋から出て来て、親戚の者が訪ねて来たので今晩は泊めると言う。
男の顔は見えなかったが、年齢は26、27歳でネズミ色のオーバー、白っぽいズボン、ノーネクタイ、がっしりした体格で、顔は浅黒かった。てっきり太田が男を部屋に連れ込んだものと思い、特に咎めることもなく部屋に戻り再び眠りについた。しかし、朝になると2人ともいなくなっていた──。
この話を警察が鵜呑みにしたわけではない。一家4人が惨殺されたのなら叫び声が聞こえたはず。大きな音がしても目覚めないという山口の言葉は本当だろうか。また、血を流して倒れている4人を発見し、なぜ救急ではなく警察に連絡したのか。彼らを助けたいと思うなら、まず病院に通報するのではなかろうか。
さらに、事件当夜、八宝亭の電話の受話器が外れており、そこから山口の指紋が検出されていた。もちろん、従業員であれば出前の電話を受けることもあるだろうが、一方で犯行がバレないよう意図的に外した可能性も考えられる。
何より外部から侵入した形跡がなく、犯人は被害者と顔見知りの可能性が高かった。
