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「なんでここにいるのかな」自問自答した米国での1年間

―― 米国にはもともと興味があったんですか?

小林 文化にも興味がなかったし、英語も苦手だったし、研究もたいしてしたかったわけでもなかったので、「なんでここにいるのかな」「本当にやりたいことはなんだろう」と1年間ずっと自問自答していましたね。目的意識もなしに行ってしまったので……。でも、そうやって1年過ごした後、ふと恐竜図鑑をみたらときめいたんですよ。それで、「やっぱり恐竜の研究をしよう」と決心し直して、アメリカの大学に入り直したんです。

 そこからはもう、大の苦手だった丸暗記です。授業はすべて録音し、丸暗記。その結果、英語の会話にも不自由しなくなったし、飛び級で大学を首席卒業できました。

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アラスカデナリ国立公園での調査(本人提供)

 ただ、大学院に進んで研究を始めたら、今度は考える力がまったく身についていなかったことがわかってしまったんです。

―― 首席卒業したのに、ですか?

小林 とにかく頭に情報を詰め込んでいたので、テストでは点数が取れたんですけど、その知識は辞書のようなものでしかなかったんですよね。なので、大学院に入った当初は研究がうまくいかず、挫折感を経験しました。でも、そこからまた試行錯誤して、自分の研究のスタイルを見つけることができたんです。

「挫折」という言葉こそ使いましたが、こういった時間は決して無駄ではなかったと思うんです。同じところで足踏みをしているようでも、実はその後の急成長の前段階にいるのかもしれない。当時の僕は非常に苦しんでいましたけれども、今振り返ってみれば、あれは「挫折」というよりも、立ち止まって考えるのに必要な時間だったのかなと思います。

恐竜研究に必要なのは「ポジティブさ」

ーー 恐竜研究は特殊な仕事だと思いますが、この仕事を続けていく上で一番大事なことはなんですか?

小林 ポジティブでいることです。そして、ポジティブでいる秘訣は、あまり物事を深く考えないことです(笑)。たとえば、調査でしばらく歩いているときに「こんなに歩いたのにみつからないんじゃないか。これだけ探したのにないんじゃないか」と考えてもしょうがないので、とにかく前に進む。

 賢い人ほど考えすぎちゃったり、石橋を叩いたまま渡れない、という人が多いと思うんですけど、そういう意味ではバカになることって結構大事なんですよ。何事も楽観的に考えればやっていて楽しいし、何かしら前進しますし、それが必ず結果につながってきますよ。

「恐竜バージョンの桃太郎」の質問に驚いた

――「NHK夏休み子ども科学電話相談」で質問を受けていて感じることはありますか。

小林 最近、質問のレベルがかなりあがってきていると思っています。知識量が多い子も、あまりない子も、自分の考えや、ある程度の答えを持って質問してきている。ある意味、僕が大学院生時代に手こずっていたことをすでに難なくこなしています(笑)。

「植物食の動物がティラノサウルスを倒しに行く物語を創作したい」という相談を受けた ©iStock

 たとえば、「恐竜バージョンの『桃太郎』を創作したいのだが、キジの代わりになる植物食の翼竜はいるか」という質問ですが、単に自分の好きな恐竜を並べるのではなく、自分なりの基準を持って質問してきているわけですよね。恐竜の生態や性格、進化とはなにかまで考えて質問してきていたり、ドキッとする質問や、ハッとさせられる質問が最近すごく多いですね。