選手にとって、移籍金が発生する場合としない場合、どちらが有利な条件を引き出せるか想像がつくだろうか。
高額な移籍金は時に選手の価値を証明するが、一方で「フリー」という立場が、理想の環境や破格の年俸を勝ち取るための最大の武器になることもある。
瀬古歩夢(26)が選んだのは、目先の好条件よりも、サッカーW杯を見据えた「5大リーグ」への飽くなき挑戦であった。その決断を支えた、代理人と選手の強い信頼関係と戦略の裏側とは?
ドイツの大手代理人事務所「Sports360」に所属する龍後昌弥氏の著書『最強の代理人 欧州最前線の代理人が日本サッカーを強くする』(KADOKAWA)より一部を抜粋して紹介する。(全2回の2回目/1回目からつづく)
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移籍金ありの入団と、移籍金なしの入団
さて、移籍金ありで入団する場合と、移籍金なしで入団する場合、どちらが選手の年俸が高くなると思いますか?
もちろんケースバイケースですし、移籍金の金額にもよるのですが、一般論として年俸が高くなるのは後者。いわゆるフリートランスファーの場合です。
移籍金がない場合、獲得する側のクラブとしてはコストが浮くので、それを選手に還元して年俸を高くするという考え方です。
サインフィー(サイン報酬)という制度もあります。いわゆる契約金です。これも移籍金がかからない分、選手に還元するというものです。契約を延長した際に払われることもあります。
グラスホッパーとの契約を満了した瀬古歩夢選手
2025年夏、瀬古歩夢選手はフリーの状態で移籍市場を迎えました。約3年半在籍したスイス1部グラスホッパー・クラブ・チューリッヒとの契約を満了したからです。
グラスホッパーでの最後の12カ月間には、グラスホッパーのGMから何度も連絡がきました。
「うちで1年だけでも延長しないか? いくら払ったら残ってくれるんだ? 選手は何が気に入らないんだ?」と。
不用意に相手のプライドを傷つけて、クラブ側に「だったらもう使わないよ」と思わせてもいけないので、連絡がくる度に「瀬古選手は自分自身のことよりも、今は降格争いしているチームの結果にフォーカスしている」などと伝え、丁寧かつ角の立たないコミュニケーションを心がけました。
最後には、アメリカのオーナーサイドからも「どうしたら残ってくれるのか」と改めて聞かれましたが、丁重に断りました。

