今年も朝井リョウさん『イン・ザ・メガチャーチ』の受賞で大きな話題を呼んだ「本屋大賞」。受賞作は、なぜ文庫化された後も、売れ続けるのでしょうか。その背景にあるヒットの法則を、文芸評論家の三宅香帆さんが読み解きます。 近年の“双璧”ともいえる、瀬尾まいこさん『そして、バトンは渡された』や、町田そのこさん『52ヘルツのクジラたち』。これらの作品に共通するキーワードから、AI時代だからこそ響く「読書だけの醍醐味」まで、本を愛するすべての人に届けたいメッセージを伺いました。

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――今年の本屋大賞に、朝井リョウさんの小説『イン・ザ・メガチャーチ』が選ばれました。

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三宅 素晴らしい作品が選ばれて嬉しいです。本屋大賞は、現場に立っている全国の書店員さんたちが選ぶところが、他の文学賞とは違う点です。たとえば作家や編集者が選考委員だと男性中心になることもありますが、書店の場合は、現場で女性が中心的に活躍している。推し活の現在地を知る彼女たちの心に本作が刺さったのかなと。

 クロス・マーケティングの読書調査によれば、「50代以上では男性より女性のほうが本を読む人が多い」というデータが出ています。他の文学賞とはまた違った属性の、本を読み込んだ人たちが推すのだから、読者に響いて当然だと思うのです。

――おっしゃるように、この賞を受賞した小説には、文庫化された後も勢いが落ちずに売れ続ける作品が多く、瀬尾まいこさんの『そして、バトンは渡された』(2019年受賞)、町田そのこさんの『52ヘルツのクジラたち』(2021年受賞)は、近年の“双璧”といえます。この2冊が支持されている理由は、どこにあると思われますか?

三宅 共通するのは、母親との関係に「葛藤」する娘が主人公の小説だということです。昨今、毒親の存在がクローズアップされていますよね。多くの人が、そこに描かれた世界に共感を覚えながら読んでいるのではないでしょうか。

 夫や姑との関係などと違い、母との葛藤というのは、友達であっても喋りにくいところがある。でも、フィクションの世界なら、登場人物に共感することも、そこに自らを投影することもできます。そういうふうに、自分の気持ちを掬い上げてくれる感覚が、これらの作品にはあるのだと思います。

文庫化されて売れ続ける本屋大賞受賞作の2作。左:『52ヘルツのクジラたち』(町田そのこ:著/中央公論新社)/右:『そして、バトンは渡された』(瀬尾まいこ:著/文藝春秋)

モチーフを生かし切った作品

――『52ヘルツのクジラたち』は、親による子どもの虐待なども扱った、けっこう「重い」作品です。

三宅 主人公である貴瑚の抱える家族による支配という「過去」と、彼女が移り住んだ地で偶然出会った虐待を受ける少年の「今」がシンクロしつつ、ストーリーが展開していきます。ただ、確かに読みながら痛みを感じるようなテーマを描きながら、読者に暗い気持ちを抱かせたままにせず、ちゃんと優しいところに届けてくれるんですね。それがこの小説のすごさであり、売れ続ける理由でもあると感じます。

 この小説には、主人公の心象の象徴として、タイトルにもなっている「52ヘルツのクジラ」が、何度か出てきます。仲間が聞き取れない高い周波数で鳴くために、何も届けられない、この世で一番孤独だといわれる存在です。

 作品は映画化されているので、私も見ました。クジラって映像も映えるのだけれど、この作品の登場シーンに関しては、活字に軍配が上がるというのが、個人的な感想です。特に、ラスト近くの夢で2頭のクジラと絡み合うシーンは、素晴らしい。このモチーフを生かし切っているのは、さすがだと思います。

 ちなみに、『そして、バトンは渡された』も映画化されています。原作と映画にはそれぞれの楽しみ方がありますから、比べてみるのも面白いですよね。

――『そして、バトンは渡された』の主人公、優子は、早くに実母を亡くし、継母の梨花さんと暮らします。梨花さんは優子をある意味「翻弄」するのですが、毒親とはちょっと違います。

三宅 一見自由奔放で、時々の事情で優子の父親が入れ替わっていく。それだけ聞くと、とんでもない母親なのだけど、その行動にも深いわけのあったことが、やがて明らかになります。

『52ヘルツのクジラたち』もそうですが、これらの作品は、「自分の居場所はここにあるんだ」と思わせてくれるんですね。今は、家族でも友達でも恋人同士でも、心を大きく開く関係ってなかなか難しいじゃないですか。描かれているのは、普通とは違う家族、人間関係だけど、そこにも居場所を見つけられるというか、むしろ違う形だから、安心して「居る」ことができる。そんなところに皆さん魅力を感じているのではないか、と思うんですよ。