時代劇にして本格ミステリでもある米澤穂信の直木賞受賞作『黒牢城』が黒沢清監督、本木雅弘主演で映画化。斬新な歴史解釈にもとづく小説を、すこぶる見ごたえのある映画に仕立てた黒沢監督と本木氏が語り合った。
迷いながら演じた荒木村重というヒーロー
黒沢 僕は荒木村重には以前から興味があったんです。信長に逆らって一年近く籠城したあげく、一人で逃げていった卑怯な戦国武将として有名ですが、その行動には謎も多い。原作小説はそこを非常に丁寧に、細かく描き込んでいて、興味を惹かれました。
本木 荒木村重の行動を皮切りに、戦国時代は終焉に向かっていったと思います。使命なのか欲なのか、下克上でのし上がるほど、村重は追いつめられていった。その過程で戦国時代のシステムの矛盾や限界を身に染みて理解したのではないでしょうか。
黒沢 それまで自明と思われていた価値観に対して、あるときはたと「これってくだらなくないか?」と気づいて逃げていく。それがすごくかっこいいし、勇気があると思ったんです。なかなかできることじゃない。
本木 決して先見の明があるだけのヒーローではないんですよね。物語も村重がどこに向かおうとしているのか、その都度に納得して物事を進めているのかもわからないし、私自身迷いながら演じていました。でも、それが人間本来の姿かと思います。現在の視座から「きっとこのときに心が決まったのだ」と解釈することはできますが、実際はひとつの答えがあったわけではなく、もっと揺れていたんじゃないか。それこそ「人の心の綾は難しきもの」ですから。
初タッグを組んだきっかけは?
1990年代以降の日本映画を牽引してきた黒沢監督と本木氏がタッグを組むのは今回が初となる。
本木 私は黒沢作品に呼ばれるタイプの役者ではないと思っていたので、今回声をかけていただいたのは意外でした。
黒沢 本木さんはある型をきっちり守ろうとする意識と、型からはみ出たほうがより良いものができるはずだという意識の間で、それこそつねに揺れている。その「気持ちの良い矛盾」が荒木村重のイメージに重なりました。
本木 それでも保守的な部分があって、役を演じるうえで観客に何かしらの道筋や成長を見せていかなきゃいけないんじゃないかと生真面目に焦るんです。でも監督に「これはどう解釈すれば?」と聞いても、絶対に答えてくださらない(笑)。それで私も答えを待たずに演じることも大事だと腹をくくりました。


