「勃たないのは、嫌なんだ」
パパは50歳を過ぎたころから糖尿病も患っていて、2か月おきに定期検査を受けるようにしていた。
2018年の夏、その検査で、お医者さんから「PSA(前立腺腫瘍マーカー)が高い数値を出しています」と言われた。これは前立腺に何か異変があったことを意味する指標だ。パパによれば、同じころに尿にも血が混じるようになっていたらしい。
詳しく調べたら、前立腺が肥大していて、がんの疑いがあるという。
パパががんになるのは、もうこれで5度目。
手術の説明を受けに私も病院に連れ添ったけど、このときのことはいまだに忘れられない。
「梅宮さん、手術をしたら、勃たなくなります」
いきなり女医さんにこう言われたのだ。
パパはショックを受けていた。
よりによって、女性にはっきり言われたことも響いたらしい。
思わず私もダメ押しで言ってしまった。
「パパはもういいわよね」
前立腺がんの手術をすると、神経が切れたり、傷ついたりして勃起不全になってしまうことが多いそうだ。とはいえ、パパはもう80歳。勃起だのなんだのって、さすがにもういいでしょ。
でも、パパは嫌だったらしい。
“夜の帝王”“女たらしの帝王”などの異名を持っていたパパ。主演した映画「夜遊びの帝王」では「シンボルロック」なんて歌も歌っていた。
そんなパパにとって男性機能を失うことは、とんでもなく悲しかったらしい。
「男にとって勃たないのは、やっぱり嫌なんだ。いくつになっても、使わないとわかっていても、嫌なんだよなぁ。できることなら手術やりたくないよ」
往生際悪く、最後までボヤいていた。
私にはわからないけど、男ってそんなもんなのかな。
さすがのパパも最後は「何事も命には代えられない」と観念したようだった。
写真=平松市聖/文藝春秋
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