二人とも既に死亡しているが…
しかし、両氏は、フィニーとサッサマンに「ナカモトなのか?」と直撃することはできなかった。
サッサマンはナカモトがネット上から姿を消してから6週間後の2011年7月、自ら命を絶ち、フィニーは2014年、難病ALSの合併症でこの世を去ったからだ。
もっとも、2010年、ALSで余命わずかだったフィニーは、ある日、PGP社のある同僚から「ナカモトなのか?」と問われてこう答えている。
「私がサトシだとしたら、否定しないよ? 致命的な病気を抱えていて、2、3年後にはこの世にいないだろうから否定するわけないよ。私はサトシではないよ」
しかし、その同僚はフィニーの答えを、否定ではなく肯定なのだと解釈している。ナカモトであるフィニーは最期まで匿名性を重視したということだろうか。
真実は遠い未来に明らかになるのか
これまで、多くのメディアにインタビューを申し込まれたものの断ってきたというフィニーの妻フランは、両氏が調査の末、フィニーがナカモトの可能性があると指摘していることに納得し、映画の最後にこう話している。
「夫がホワイトペーパーを書いたとは思いませんが、編集するのは助けていたかもしれません」
また、フィニーとサッサマンがナカモトだとしたら、ナカモトのビットコインのウォレットへのアクセスがなく、莫大な資産に誰もタッチしていないことも納得がいく。2人は亡くなったのでアクセスができないからだ。
ところで、フィニーは、1990年代に注目された“エクストロピアニズム”というトランス・ヒューマニズム運動に傾倒するエクストロピアンでもあった。“エクストロピアニズム”は、エントロピーの対として造語されたエクストロピーから派生した考え方で、知性において全潜在能力を発揮する人類を目指すことを重視している。当時、様々な分野の人々がエクストロピアンとなったが、彼らが議論していたことの一つがビットコインのような“デジタル・キャッシュ”だったという。
ドキュメンタリー映画の中には、ユナボマーことセオドア・ジョン・カジンスキーの逮捕に貢献した元FBI捜査官キャスリーン・パケットが登場し、ナカモトは「金銭に執着していない知性派」だとプロファイリングしている。このことも、エクストロピアンだったフィニーのナカモト説を示唆しているように思われる。
フィニーがナカモトであるとしたなら、その事実は、遠い未来に明らかになるのかもしれない。フィニーは、アリゾナ州にあるアルコー延命財団のメンバーでもあったからだ。同財団は、亡くなったメンバーの肉体や脳が未来のテクノロジーで再生されるよう、死後、凍結保存する活動を行っている。フィニーの脳も亡くなった直後に凍結保存された。
いつの日か蘇ったフィニーが告白する時が来るかもしれない。
「私がナカモトだったのだ」と。