ロヒンギャを狙ったヘイトスピーチの拡散

 事態の深刻さが初めて垣間見えたのは、私が政権幹部と面会した翌年、2014年だった。同年4月、私を含む政策チームの数名は、ミャンマー国内で激しいヘイトスピーチが拡散されているという情報を耳にした。その大半は、イスラム教徒の少数民族であるロヒンギャを標的にしたものだ。暴徒がモスクに放火する事件も起きていた。

 私たちはヘイトスピーチの削除を担当するコンテンツ運用チームに対策を強化できないかと尋ねたが、答えは「ノー」だった。つい最近、ビルマ人の契約社員を新しく雇ったばかりで、対応はすでに万全だからという。Facebookのコンテンツ政策責任者はこう断言した。「ミャンマー担当者には対応の余力が十分にあることを確認しています」。さらに詳しい報告を求めると、処理待ちになっているヘイトスピーチの通報はわずか4、5件しかないという内訳が示された。取るに足りない件数だ。

 このやりとりから数カ月後、Facebookの投稿をきっかけに暴動が発生し、2014年7月4日、政権はFacebookを遮断した。問題の投稿は、「茶店の店主であるイスラム教徒の男に仏教徒の女性がレイプされた」というものだった。かなりあとになって出た国際連合の報告書は、この話は捏造だったと結論づけた。

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 しかし、この投稿は“ビルマのビン・ラディン”とも呼ばれる仏僧アシン・ウィラトゥによってシェアされたことで、一気に拡散された。ウィラトゥは過去に宗教的憎悪を煽った罪で投獄された経歴があり、このころにはFacebookを武器として使いこなすコツをつかみ始めていた。(たしかに、“仏僧”という言葉から“テロリスト”をイメージする人はあまりいないだろう。しかし、ミャンマーでは、多数派である仏教徒が何十年にもわたってロヒンギャのイスラム教徒を迫害してきたという現実がある。)

削除判断を下せなかったFacebook

 その後、政権の指導部がレイプ疑惑に関するウィラトゥの投稿の削除を要請していると伝えるメールが私に届いた。現実に暴動が発生し、仏教徒の暴徒がイスラム教徒の商店を襲撃するなどして死者まで出ている状況を踏まえれば、それらの投稿がFacebookの規定に違反しているのは明らかと見える。ところが、ダブリンに拠点を置くコンテンツ運用チームは削除を渋った。担当者は規定違反ではないと考えていた。ただし、ビルマ語ができる人材が見つからず、Google翻訳もビルマ語に対応していないため、断定はできないという。

 そこで私は、より上位の担当者を巻きこむことにした。その人は、数カ月前に雇い入れたばかりのビルマ人契約社員――ダブリン在住――に連絡し、投稿の内容を確認させると言った。しかし、それきり返事がないまま5時間が過ぎた。

「どれくらい時間がかかりそうですか」と私は再度問い合わせた。ミャンマーの通りでは暴動が続いている。一刻も早くその投稿を削除しなくてはならない。

「残念ながらわかりません」と上位の担当者は答えた。

「ビルマ人契約社員はいまオフラインなんです。Facebookでメッセージを送っておきました。気づいて返信してくれることを願うしかありません」

「電話番号はわかりますか」私はそう返信した。

「緊急事態なので」