アメリカ政府のデータ収集要求には「一線を越えた」と激怒し、プライバシー保護を声高に叫んできたFacebook(現Meta)のマーク・ザッカーバーグCEO。しかし、世界最大の市場である「中国進出」の前に、その理念はあっさりと捨て去られていた。

 Facebookは中国の投資会社と結託。中国政府の検閲を支援するため、特定のコンテンツを削除する「緊急スイッチ」や「顔認識ツール」を開発し、なんと中国国外からの私的メッセージすら当局が閲覧できるシステムを構築しようとしていたのだという。

 その事実を告発したのは同社の元幹部であるサラ・ウィン・ウィリアムズ氏。ここでは彼女の著書『ケアレス・ピープル 権力と欲望、失われた理想の物語』(すばる舎)の一部を抜粋。

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写真はイメージ ©︎show999/イメージマート

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中国におけるパートナー

 進出プロジェクトは、〈オルドリン〉のコードネームで呼ばれた。人類史上初めて有人宇宙船を月面に着陸させた宇宙飛行士バズ・オルドリンにちなんだ名称だ。その後、Facebookが中国で事業を行うには中国企業との提携が不可欠と中国政府が判断した結果、中国のプライベートエクイティ企業、弘毅投資(編集部注:ホニー・キャピタル)が参画することになり、こちらには〈ジュピター〉というコードネームが与えられた。

 ホニーは、中国人ユーザーの全データを中国国内で保管し、中国政府と連携するコンテンツモデレーション・チームを設置する。このチームは、禁止コンテンツのブラックリストに基づいて検閲を行い、中国政府が要求するユーザーデータを引き渡す役割を担う。ホニーは中国国内のあらゆるコンテンツを監視し、たとえ発信元が中国国外であっても削除する権限を持つ。Facebookは、中国による検閲を支援するため、顔認識技術、写真タグ付け機能、そのほかのモデレーション用ツールを開発する。これらのツールにより、ホニーと中国政府は、中国人ユーザーの公開投稿だけでなく、国外のユーザーから届くものを含めた私的メッセージも閲覧できるようになる。

検閲を前提とした運営体制

 いくらなんでも乱暴なやり口と思えた。その後、顔認識や写真タグ付けなどのモデレーション・ツールの細部を詰めるため、Facebookと中国側代表者とのあいだで何年にもわたって協議と訪問が繰り返された。Facebookの専門家による、人工知能、仮想現実、拡張現実に関するブリーフィングも行われた。さらにFacebookは、中国政府による監視のツールだとして広く非難されている企業Huaweiを、Facebookのオープン・コンピュート・プロジェクトに招待した。加えてFacebookは中国企業に対し、インターネットインフラに関する技術指導を申し出た。これにより中国企業はIBMやCiscoといった米国企業との競争力を増すことになる(Ciscoは中国のインターネット・ファイアウォールを構築した米国企業)。

 Facebookはマークの指示のもと、中国共産党の要求に応えるため、社内でも評価の高いベテランのエンジニアを含む大規模なチームを編成し、ホニーがユーザーのメッセージや投稿を精査し、すべてを簡体字中国語に変換するための新しい検閲ツールの開発に着手した。