後回しにされたミャンマー対応

 私は同意できなかった。2014年当時のミャンマーは、ヘイトスピーチやフェイクニュース、集団暴行に翻弄される一方で、民主化を模索する途上にあった。まさに一触即発の状況だったのだ。そんな国を、ほかの国と同じように扱えるはずがない。何百万という人々が“Facebook=インターネット”と考えている国で、Facebookの運用チームにはビルマ語を話せる人間がたった一人しかいなかった。それだけ――たった一人だ。中国向けには何百人も配置しているというのに、ダブリンに住む、正規の社員でさえないたった一人の男性が、ミャンマー全土を混乱に巻きこむようなヘイトスピーチへの対応を一手に引き受けているのだ。

 コンテンツ運用チームを労うメモは、結局、送信された。

 ミャンマーで違反のおそれありと報告されているコンテンツについて実態を調査する気がコンテンツ運用チームにないなら、私のチームでやるしかない。わずか数週間で、ミャンマーにおけるFacebookの運営がいかにお粗末であるかが明らかになった。たとえば、Facebookコミュニティ規定のビルマ語版がないため、何が許され、何が禁止されているのかを利用者が知ること自体が不可能だ。

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 サイトの基本設計――〈いいね!〉ボタンや、問題のあるコンテンツを報告するのに必要な〈通報する〉ボタン――もビルマ語に対応していない(または文字化けする)。そして何より衝撃だったのは、Facebookそのものがビルマ語に対応していないことだ。その気になればいつでもビルマ語化できたはずだろうに……優先度が低いという理由で放置されていた。

写真はイメージ ©︎GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

「技術的にはすぐ解決できる」

 さらに言えば、ミャンマーは世界でも数少ないUnicodeを採用していない国の一つでもある。Unicodeとは、コンピュータ上で文字を表現するための国際的な標準規格だ。これを採用していないので、ミャンマー国内にいる利用者であれば、Facebookにビルマ語で投稿でき、それを判読可能な文字として読むこともできるが、ミャンマー国外からは文字化けした判読不能な記号の羅列になってしまう。

 読めもしないコンテンツをどうやってモデレーションしろと? 私たちはFacebookの国際化担当責任者に相談した。その責任者によると、ビルマ語に関するこの問題について、自分もエンジニアリング・チームも十分に認識しており、しかも技術的にはすぐ解決できるそうだ。

 実際、1年前に取り組もうと提案したのだが、誰も耳を貸さなかったらしい。優先順位を与え、エンジニアを割り当ててくれさえすれば、すぐにでも取りかかれるという。ミャンマーは人口5000万を超える巨大な潜在市場だ。暴動から数週間後、私はエリオットやハビ(編集部注:ともに当時の同社幹部)、コンテンツ政策責任者らと会い、懸命に訴えた。あの暴動を見れば、Facebookがミャンマーに致命的な影響を及ぼしかねないことは明らかだ。ヘイトスピーチをもっと的確にモニターしなくてはならない。そのためにはUnicode対応を急ぐ必要がある。