4人のミドル・エイジ・クライシスを聞くことで、中年の心の危機を明らかにする『ミドル・エイジ・ビギンズ』を上梓した臨床心理学者の東畑開人さん(43)と、10代の頃から一貫して女性の生き方について書いてきたエッセイストの酒井順子さん(59)。
現代の中年特有の困難とは何か? 自身も「危機」を経験したという2人が語り合いました。『週刊文春WOMAN2026夏号』より一部を抜粋し、紹介します。
“惑う中年”が増えているように見える
酒井 子どもの頃の親世代を思い出すと、今の中年世代よりも落ち着いていたような気がします。でも、平均寿命が延びて「いつまでも若くいよう」「充実した毎日を過ごそう」なんて言われて、「え、どうしたらいいんだろう」と”惑う中年”が増えてるんじゃないかなと。
東畑 『ミドル・エイジ・ビギンズ』を書くにあたって中年期についての心理学の研究をたくさん読んだんですが、中年の惑いは「秘密」なんだと書かれていました。
酒井 秘密?
東畑 つまり、当人にとっては一大事なんだけど、周りの誰もそれに興味がない。だから中年の惑いはシェアされず、一人きりで抱える秘密になってしまうということですね。でも、近年はそれが秘密じゃなくなってきて、表立って言えるようになってきた。
酒井 だから惑う中年が増えているように見える、と。
東畑 そういう可能性もあるかなと思ったんです。
心理学者のユングは、太陽の1日の動きに人生をたとえて、ミドルエイジを「人生の午後」と呼んでいます。ミドルエイジは二つの危機に挟まれている。太陽が上昇から下降に入る「人生の正午の危機」と、引退が迫ってくる「夕方の危機」。つまり、中年になるかならないかって危機と、中年が終わるか終わらないかっていう危機ですよね。この両方の危機がぐちゃーっと混ざったまま、ミドルエイジが進んでいくという。
酒井 おもしろいですね。そう考えると、『黄昏流星群』なんて本当にいいネーミングなわけで。
東畑 そうそう。「黄昏」は、引退するか否かの時期のことですから。
酒井 人生後半になると、手放すものが増えたりして、人生が下降していく。ただ、最近では、「中年になっても新しい挑戦を続けていかなくてはならないのだろうか」と悩む人も増えている気がします。たとえば、私は小泉今日子さんと同い年なのですが、外見は無理に若作りをせず素敵です。一方で仕事面を見ると、プロデュース業などの新しい仕事をどんどん始めたりしていて「ああ……」って。
東畑 どんな気持ちになるんですか?
酒井 私もがんばらなきゃいけないのかなって(笑)。

