現代は青年期が続くのが苦しい
東畑 それはある種、現代の苦しいところかもしれません。ずーっと青年期が続くんですよね。「青年に戻る物語」を生きなければならない。
酒井 「青年に戻る物語」?
東畑 青年期は成長したり、新たな仕事や役割を手に入れたりする時期ですよね。そうやって上昇していくことを、人生を通じて何度もやるんだ、という物語のことです。堀江貴文やイーロン・マスクのような起業家が象徴的で、彼らは何度でもロケットを打ち上げます。まるで太陽が古くなったら、また新しい太陽を打ち上げるように。
そこまでではないにせよ、中年になって新しいことを始めて若い頃のようにバリバリやってます、というストーリーを見聞きすることは増えました。
シューッと紙飛行機のように軟着陸する「停滞の物語」とは
酒井 でも、人生後半、だんだんと落ち着いてきたって人のほうが、数の上ではずっと多いはずですよね。
東畑 僕もそう思っています。これまでの心理学では、中年期に起きる心の変化を説明する3つの物語があると言われてきました。1つ目はさっき言った「青年に戻る物語」。中年になって新しいことを始めるということですね。2つ目は「親になる物語」。これは実際に親になるというより、管理職になるとか、後継者を育成するといった、第一線を退いて若い世代をバックアップする役割に回るということ。
3つ目は「影を生きる物語」。これは今まで生きてこなかった自分を生きるということです。たとえば、仕事一筋だった人が、中年になって急に不倫に溺れてしまう。でもそれは悪いこととも言いきれない。ユングや河合隼雄がよく言うのですが、自分の中の嫌だった部分や、今までとは正反対の自分も含めて生きることが自己実現であるというんです。
ただ、僕自身が中年になった時、この3つの物語にリアリティが持てませんでした。それは、どれも「獲得」の要素があるから。本当は、ちょっとずつごまかしごまかしやりながら、仕事や役割を減らしていって、シューッと紙飛行機のように軟着陸する物語があるんじゃないかと。それを本の中では「停滞の物語」と呼んでみたんですが。
酒井 「停滞の物語」、すごく共感します。

