50代に入り「人生、こんなにペラッペラでいいのか」と…
東畑 これらに加えて、まだもう1回あるんですか?
酒井 その後はちょっと間が空いて、40代は落ち着いていたんです。ただ、50代になって、周囲の会社員たちが役職定年や早期退職で落ち着かなくなってきて。機を見るに敏な人たちはそれまでとは違う道に転職したり、そうじゃない人たちはもやもや感を抱えつつ会社にいたり。そういう動向を見るうちに、自分もこのままじゃいけないんじゃないか、と。
東畑 それは1回目とは違う「このままじゃいけないんじゃないか」なんですか?
酒井 ちょっと違いましたね。3回目のときは、高齢者の一歩手前に立ってみて自分の人生を振り返り、「こんなにペラッペラでいいのか」みたいな話を、周囲の50代たちとよくしてたように思います。
東畑 その気持ちはよくわかりますよ。僕は今43ですけど、去年『カウンセリングとは何か』という本を書き終わったときに「俺の中にもう新しいものはないんじゃないか」としんどくなってしまって。
酒井 「燃え尽き症候群」みたいな感じですか。
東畑 なんていうんですかね。カウンセリングを勉強し始めた20歳くらいのときから「カウンセリングとは何か」という大きなテーマが自分の中にあったんですけど、去年本を書いたら、答えが出てしまったんですよ。学問って深いから答えは出ないってよく言いますけど、案外出るもんだなとびっくりして。喜ばしいことだったんですが、じゃあこの後どうしよう?と。
酒井 オリンピックで金メダルを獲った後のような。
東畑 そういった達成の物語とも取れるんですけど、自分にとっては頭打ちの物語でもあって。「もっと優れた学者だったら、こんなところで答えを出さずにもっと深いところに進んでいけたのかもしれない。でもどうやら俺はそうではないらしい」と。
酒井 でも、ご自分の中で一定の頂点みたいなものはご覧になったわけでしょう。それを見ることができない人、上昇しきれない人たちもたくさんいるわけです。もっといけそうなのにいけなくて、ここで終わっちゃうのかなって。私もそうですけど。
※酒井順子さんが見つけた中年の危機の乗り越え方や「高齢者本」の意外な効用、中年と連帯について二人が語った記事全文は、『週刊文春WOMAN2026夏号』で読むことができます。
写真:深野未季
