親子みたいな親子
「ねえ、なんで? なんで知ってるの? 旦那、一体、どこの人?」
――どこって?
「どこで生まれたの?」
――生まれたのは横浜市中区上野町。
「うそお、うそだあ」
私の肩を思い切り叩く父。
――うそじゃないですよ?
「だって俺と一緒だよ。中区上野町っていったら。大体、旦那は学校どこ?」
――希望ケ丘高校。
「うわあ、最高じゃん。本当に?」
――本当に。
「だってそれ、ウチのせがれと同じ。それで大学は?」
――東京外国語大学モンゴル語学科。
「やだ、やだ、やだ、やだ。それじゃあまるっきりウチのせがれと一緒じゃないですか。旦那は名前はなんていうの?」
――タカハシです。
「やだ。名前も一緒。下の名前は?」
――ヒデミネっていうんです。
「知ってる。その名前知ってる。聞いたことある」
――そうなんですか?
「だって、あたしのウチはここでしょ」
父はそう言って、シーツに指を立てた。
「そのヒデミネっていうのは、ここなんだよ」
指の位置からして、すぐ隣らしい。親しみの距離感を表わしているのか。
――近いですね。
「近い。ウチからすごく近い。それこそ朝起きたら連れていってあげますよ。いやあ、おふくろなんかも絶対びっくりするよ。本当にうれしくなっちゃう。ああよかった。旦那に会えて本当によかった。でもあれだよね、あんまりヘンなことばっかり言っていると、旦那のお父さんに怒られちゃうね」
――お父さんは昭二っていうんですよ。
そう言うと、父は気絶したようにフリーズした。
「そんなことってある? ああああ、本当にびっくりする」
父は私の顔をしげしげと見つめ、「そういやあんた、ウチのせがれに似てる」と言った。この私は子として認められていないが、その私は父の自慢の息子のようでもあり、私は少しうれしかった。
「これもあれですかね、ひとつのご縁ですかね」
父はしみじみとそう言った。確かに縁といえば縁である。まるで平行世界のようだが、こうしてつながる感覚のことを縁というのだ。
――そうですね。これからもよろしくお願いします。
私が頭を下げると、父はこうつぶやいた。
「それじゃ、旦那とあたしは親子みたいなもんですね」
――お、親子みたいな?
今度は私がびっくりした。親子みたいな親子。通常は実の親子でない時に「親子みたい」と形容する。「親子みたい」とは親子でないということを含意するので、親子でない親子ということか。親子でないと思っていたのに親子だと気がついた瞬間ということか。
