近年でも、『PLAN 75』(2022年)では主人公がそれまで勤めていたホテルをクビになり、工事現場で交通整理をする場面を実際の車道で撮っている。テストではあまり来なかった車が、本番でカメラが回り始めた途端、次から次へと来るので必死になって交通整理をしたという。《やってみると本当にたいへんなことがわかって。高齢者は続けられないし、やらせちゃいけない仕事かもしれないですね》と、思いがけず、作品のテーマにも通じる現実の日本が抱える問題にも気づかされたようだ(『週刊金曜日』前掲号)。

次は「ものすご~〜く、悪い人」を演じたい

 女優は年齢を重ねるごとに役柄が狭まるといわれてきた。しかし、倍賞はさくらのような自身の代名詞となるような役を得て、一時はそのイメージに縛られながらも、やがてそこから自分を解き放ち、現在にいたるまで役の幅を広げている。その彼女は昨年の『TOKYOタクシー』の公開時のインタビューで、次は作品のなかでどんな人の人生を演じてみたいかと訊かれ、次のように答えていた。

©文藝春秋

《ものすご~~く、悪い人。困った人がお金を借りに来るとニコニコ貸してあげるような一見いい人なんだけど、裏でものすごく悪いことをしているような人。実は泥棒稼業をやってるんだけど、人としての良さみたいなのは根っこにあるような人とか》(『anan』2025年11月26日号)

 悪人を演じるには、役柄とは反対に、常識を持った普通の人でなければ務まらないだろう(本物の悪人とはことごとく常識の裏を行く存在なのだから)。役作りのため数々の職業を体験してきたうえに、市井のさまざまな人たちと交流を深めて「普通」でいられるうれしさを知ったいまの倍賞なら、きっと魅力あふれる悪人を演じてみせてくれるに違いない。

最初から記事を読む 「本当にすさまじくて」木村拓哉が現場で驚愕したワケは…4歳で疎開→19歳でデビューした“下町の太陽”倍賞千恵子(85)の女優人生

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。