ネタニヤフには様々な称号がある。その一つが、「ミスター・ネバー・パレスチナ」だ。オスロ合意後、パレスチナとの和平交渉は2009年のネタニヤフ再登板後も続けられたが、14年を最後に交渉は断絶した。当時の米オバマ政権の幹部は「ビビ(ネタニヤフの愛称)の問題は、彼が『腰抜け』だということだ。ネタニヤフの良い点は、戦争を起こすことを怖がっているところだ。悪い点は、パレスチナ人とも、スンニ派アラブ諸国とも、和解に向けて何一つしようとしないことだ。彼が関心を持つのは、自分が政治的に負けないようにすることだけだ」と和平に消極的だったと批判した。

トランプにネタニヤフが操られていると抗議する市民(筆者提供、2026年5月29-30日)

 今では好戦家とみなされているかもしれないが、筆者もネタニヤフ首相について、「臆病だ」とか「慎重派だ」という評価を現地のアナリストや研究者から聞いたことがある。ネタニヤフが天才的な政治家であることは論を俟たないが、結局、自身にとって政治的に有利な状況になるまで決断せず、国民にウケのよい軍事作戦を展開してきたと言える。イスラエルの安全保障を長期的な視点で考えれば、パレスチナとの二国家解決が最も有益であることは明白だが、取り組むことはなかった。

 そのイスラエルに外交的ブレークスルーが訪れたのは2020年。アラブ首長国連邦(UAE)やバーレーンなどの湾岸諸国との国交正常化を果たし、イスラエルが中東に統合されていく新たな時代を迎えたように見えた。まさにパレスチナ問題を葬り去ったかのように見えたが、大きなしっぺ返しが待っていた。

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イランからの攻撃を受けたテルアビブ中心部(筆者提供、2026年5月29-30日)

ハマスへの資金供与を容認

 2023年10月7日のハマスによる大規模越境攻撃だ。ガザ地区を拠点とするハマスはフェンスを破壊してイスラエル側に無差別攻撃を仕掛け、市民を含む約1200人が死亡、250人以上が人質となった。

パレスチナ占領への反対を一般市民に向けて訴える左派イスラエル人(筆者提供、2026年5月29-30日)

 イスラエルがその後ガザ地区に大規模な報復を加えたのは報道の通りだが、このハマスの攻撃には前段がある。そもそもハマスによるガザ地区の実効支配という異常な状況を、ネタニヤフは根本的に解決しようとせず、むしろガザ地区とヨルダン川西岸地区の政治的分断を維持することで、パレスチナが結束するのを妨げてきた。イスラエルはハマスが軍事的に脅威とならないよう、定期的に打撃を加えては戦力をそぐ「草刈り」と呼ばれる方針で対処しつつ、ハマスの影響力をある程度維持するために、カタールからハマスへの資金供与を容認してきたのだ。

 安全保障が国家の根幹であるイスラエルにおいて、ハマスの攻撃を招いたことは歴史的な失態であり、ネタニヤフの「ネバー・パレスチナ政策」には審判が下るはずだった。国防相や軍幹部は自身の責任に言及し、その後退任した。しかし、ネタニヤフは一切、責任問題に言及せず、独立調査委員会の設立を拒み続けてきた。

※本記事の全文(7500字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2026年7月号に掲載されています(曽我太一「“世界を壊す男”  ネタニヤフの正体」)。 全文では、以下の内容が語られています。 

・「ネタニヤフ」の名前の由来
・関心は「自分が政治的に負けないこと」だけ
・10月までに行われる総選挙の行方は?

文藝春秋

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“世界を壊す男”  ネタニヤフの正体

出典元

文藝春秋

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