5月に刊行した『#台所のあるところ』(文藝春秋)が第175回直木賞候補となった原田ひ香さんと、『カフェーの帰り道』(東京創元社)で第174回直木賞を受賞した嶋津輝さんが初対談。

 原田さんが『カフェーの帰り道』の単行本の帯に推薦文を書いたという縁のあるふたりには「台所が好き」という共通点もあった(取材・構成/相澤洋美)。

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理想の台所は選べない

 嶋津 原田さんの新著は「台所のあるところが自分の居場所」という女性たちの物語ですが、私にとっても台所は仕事場で、居場所です。

『カフェーの帰り道』(東京創元社)で第174回直木賞を受賞した嶋津輝さん ©文藝春秋

 原田 台所で作品をお書きになっているのですか?

 嶋津 会社員時代は、朝早めに出勤して会社近くのカフェで執筆していました。でも、専業作家になって家で書くことが多くなってからは、ほとんど台所で書いています。喉が渇いた時、小腹が減った時、すぐ対応できるので便利なんです。

 原田 私も真似しようかしら。仕事部屋は別にあるんですか?

5月に新著『#台所のあるところ』(文藝春秋)を上梓した原田ひ香さん ©文藝春秋

 嶋津 別の部屋に、リモートワーク時代に準備した仕事用デスクがあります。でもなかなか「これから仕事をします」という気持ちになれず、近寄りがたくて(笑)。台所なら、キッチンに入るついでや隙間時間に書けるのではないか、という目論見もあって、いまはダイニングテーブルに大型モニターを置いて、そこで書いています。

 原田家の台所は、お料理のこだわりがたくさん反映されていらっしゃる素敵な台所なのでしょうね。

 原田 そうでもないです(笑)。私の台所観の根底には「自分では選びがたいもの」という意識があります。家族の仕事の関係で引っ越しが多く、北海道や大阪、シンガポールなどあちこちに住んできましたが、いつも「ここに住んでください」と言われたお仕着せの場所。「こだわり」といえば広さや条件にあう家電や棚を選ぶことくらいで……今の台所ははじめて自分で選ばせてもらったのですが、「好きに選んでいい」と言われても、予算や家族の都合もあるので、そんなに「好きに」できるわけではありません。結局、フードスタイリストや料理家など、「食」を生業とするプロでもない限り、「理想の台所」を選べるわけではないのだと、現実を知りました。