「100万円あれば逃げられる」
嶋津 新著の1話目も「理想の台所」に破れた主婦が主人公でしたね。憧れの500リットル以上、シルバー両開きの大型冷蔵庫が新居に入らず、二回りは小さい平凡な白の冷蔵庫で妥協した過去を思い返すシーンは、見てきたようにリアルでした。
原田 生活を書くということは、その時代の価値観や女性の生き方を書くことでもあります。自分ではそんなに意識していませんでしたが、昔から「この人はどのくらいお給料をもらっていて、家賃いくらのところに住んで、どのくらいお金を使い、どういうご飯を食べているか」と設定を細かく決めて書いていました。お金に関して昔からシビアだったのかもしれません。
嶋津 私は税理士として働いていたくせに、信じられないくらいお金に無頓着で、貯蓄が本当に苦手。以前、原田さんのインタビュー記事で、「月8万円ずつ+ボーナス2万円貯金すれば年間100万円が貯まると言われ、社会人1年目で本当に100万円の貯金を達成した」というエピソードを拝読したことがあります。なんてしっかりした方なんだ、と感激したことを思い出しました。
原田 月8万円の話は、大学時代に教育学の先生が仰っていたんです。「結婚して子どもができても、100万円あれば、いざという時に子どもの手を引いて逃げられる」と。あとは、母方の実家が商売を営んでいたので、お金の使い方や貯め方に関しては祖母の影響も大きいと思います。
※この続きでは、執筆中の作品について嶋津輝さんが語っています。約6500字の全文は、月刊文藝春秋のウェブメディア『文藝春秋PLUS』と『文藝春秋』2026年8月号に掲載されています(嶋津輝×原田ひ香「物語は台所で生まれる」)。
■原田ひ香(はらだ・ひか) 1970年生まれ。2007年、すばる文学賞受賞。『三千円の使いかた』(中央公論新社)は100万部超のベストセラーに。『一橋桐子(76)の犯罪日記』(徳間書店)など著書多数
■嶋津輝(しまづ・てる) 1969年生まれ。会計事務所などでの勤務を経て、2016年、「姉といもうと」でオール讀物新人賞を受賞。今年1月に『カフェーの帰り道』(東京創元社)で直木賞を受賞
