『#台所のあるところ』

 累計100万部を超えるベストセラー『三千円の使いかた』をはじめ、お金や生活、暮らしをテーマに数々の作品を生み出している原田ひ香さん。最新作『#台所のあるところ』では、誰しものそばにある「台所」をめぐって6人の女性が描かれます。

 原田さんが台所に寄せる想いや小説が生まれたきっかけについて、担当編集者がお話を伺いました。(前編/後編はこちら

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「冷蔵庫で一冊書いてもよかったくらい(笑)」

――2人の子供を育て上げ、定年退職した夫が海外に行ったことで一人残された55歳の主婦、モラハラ気味の彼氏と恵比寿で同棲する27歳の会社員、生意気盛りの4人の子を育てる48歳のシングルマザー……。6人の女性たちは世代も境遇もバラバラですが、みな「誰かと生きること」に常に一生懸命という共通点があるように感じました。

原田:たしかにそうも見えるのですが、同時に、それぞれ様々な不満を抱えながらも、たとえば仕事を辞める、母親であることを辞める。そんな大きな変化を起こすのではなく、小さくても自分の手の届く範囲で少しずつ何かを変え、現状をよくしていこうと模索する人々の姿を描きたいと思いました。

 小説ってそういうものだと思うんです。大きくも小さくも人が変化していく様子を描くのが小説の魅力ですよね。

 

――「手の届く範囲で」と考えると、最初の章の主婦が一人残された家に本当に欲しかった冷蔵庫を迎え入れようとする場面は象徴的ですね。「今、自分が一番欲しくて必要な冷蔵庫を、大きさや見た目は関係なく、運べるかどうかも関係なく、予算も関係なく、自分の気持ちのまま、選ぼうと思った」という一文が特に強く印象に残っています。

原田:私、冷蔵庫が好きなんですよ。もともと文藝春秋さんから「台所をテーマに小説を書きませんか」とお声がけいただいたとき、「それなら冷蔵庫だな」と一瞬で思ったくらい(笑)。結局、冷蔵庫だけには絞らず、一口コンロや中華鍋、吊り棚……モチーフはいろいろ出てくるのですが、全体を通してもやっぱり冷蔵庫が多く出てくるんですよね。

 冷蔵庫って、一般的にはあの四角い箱で、冷蔵庫って言いながら実は冷凍庫が一緒になったものを使っているのが普通だと思うんですけど。でも、実は人によってかなり違う。冷凍庫をたくさん持っていたりとか、例えばワインセラーみたいなものも冷蔵庫の一種ですよね。その人の性格や好きなもの、生活によってまったく違うのが冷蔵庫なので。

 こんなに冷蔵庫冷蔵庫言って、本当は冷蔵庫で一冊書いてもよかったくらい(笑)。

 6人の女性を書くにあたり、最初からそれぞれの冷蔵庫をかっちり決めていたわけではないのですが、書いているうちに「この人が毎日食べるのはこれだから、こんな冷蔵庫なんじゃないか」とか、「若い人の台所はこういう感じかな」などと自然に湧き上がってくる感覚が面白かったです。