『ぼくたちはどう老いるか』(高橋源一郎 著)

 72歳(執筆時)になった著者は鏡に映った自分の顔を見て《「見知らぬ老人」がいるな》と驚く。賃貸物件を借りようとすると、70歳を超えていることを理由に保証人を求められ……。

 本書は、こうして「老い」の域に入った著者が、自分の「老い」とどのように付き合っていけばよいのかを考えたエッセイだ。

 哲学者・鶴見俊輔が自身の老いと向き合った『もうろく帖』、漫画家・ハルノ宵子が父・吉本隆明の晩年の姿を綴った『隆明だもの』、有吉佐和子の『恍惚の人』、私小説家・耕治人(こうはると)が認知症の妻を介護する日々を書きつけた書。著者の思索は、これらを深く丁寧に読み解きながら進められていく。

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「長寿者のエッセイ、または長生きをするための食事や睡眠、運動などを扱った、『老い』をテーマにしたベストセラー本は多い。しかし本書はそれらとは一線を画している点に特徴があります。本書では『本当の老いとはどういうものか』が語られている。排泄や認知機能のことを含め、最期の日に向けて人の身体と心はどう変化していくのか、またその家族は何に直面するのか。読者は著者が選んだ小説や詩などを通じて、老いの現実をまざまざと突きつけられます。でもそれらはきっと、老いの当事者が本当に知りたかったこと。だからこそのヒットなのではないでしょうか」(担当編集者の矢坂美紀子さん)

 読者は著者の手に引かれるようにして老いの世界へ分け入っていくことになる。だがその先にあるのは厳しい側面ばかりではない。著者の解釈によって、身体と心が老い衰えてもなお、人に残るもの、人ができることなどにも気付かされる。

「テキストの引用箇所抜粋の見事さは、膨大な読書量の蓄積がある著者ならでは。どれも心にスッと入ってくるものばかりです。著者の頭の中には、“バベルの図書館”のごとく、あらゆる書籍が整然と並んでいるのかもしれません」(矢坂さん)

 終盤の特別篇では、著者が谷川俊太郎さんの柩の前で詩人の伊藤比呂美さんと話し、考えたことを綴る。加えて、著者の父の事業失敗により一家で夜逃げ、離散集合を繰り返した家族のこと、その過程で一時疎遠になった弟「トシちゃん」の死に直面し、わき上がった感情についても触れている。この特別篇は読者の反響が特に大きかったそう。

2025年12月発売。初版1万5000部。現在5刷5万2000部(電子含む)

ぼくたちはどう老いるか (朝日新書)

高橋 源一郎

朝日新聞出版

2025年12月12日 発売