「眠れない」二人が出会う理由
――主人公は月代杏果と根津梗士郎という男女バディです。月代杏果は、かつて捜査一課にいた三十代前半の女性刑事。2年前の未解決の誘拐事件をきっかけに不眠症を発症し、職務中に失態を犯してしまったことで刑事総務課犯罪統計係へ異動になります。
根津は元機動隊員で、9年前の災害が原因で脳に障害を負い、1日に1時間未満しか眠れなくなってしまった警察官です。まず、「根津梗士郎」という名前には、何か意味が込められているのでしょうか。
矢樹 はい。柴田錬三郎さんの「眠狂四郎」の逆、ということで。中年センスで申し訳ないのですが(笑)。
――根津というキャラクターに込めた思いを聞かせてください。
矢樹 ご依頼いただいたのは警察小説ですから、私がかっこいいと思う警察小説のイメージとして横山秀夫先生の作品があって、地道に足で捜査を積み上げていくスタイルへのリスペクトがあります。
根津は確かに特殊な能力を持つキャラクターではあるんですが、その能力が発現しているときは、本人はたいてい眠っているんです。だから自分がすごいとはまったく思っていない。あくまで警察官としての職責を果たそうとする、生真面目な人物として描きたかったんです。
また、機動隊時代も真面目に仕事をしていた人物で、異動した先の新しい仕事を一生懸命覚えようとする。そういう熱心な警察官です。
「芯が通った」瞬間
――杏果は、30年前に姉が誘拐されるという家族の悲劇に見舞われています。総務課統計係メンバーとして小さな謎を解きながら、この大きな謎も動かしていく構成は、書いていてどのようなご苦労がありましたか。
矢樹 すごく苦労しました。連載という形式でしたので、一話で読んで満足していただきながら大きな謎も同時に動かしていく、という構成は正直「無理じゃないか」と思っていました。
――その難所をどのように乗り越えたのでしょうか。
矢樹 私は、プロットよりも本文を書きながらキャラクターをつかんでいくタイプなので、プロットの段階では大きな謎に絡む重要人物についてなかなかつかめていませんでした。ですが、中盤あたりで、“ある人物”を書いたとき、物語全体に芯が通るような感覚をつかめて。そこでほっとしました。それまではふわふわした感じで書いていたのが、着地点が見えた、という感じです。
