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そして昼夜逆転生活の「テレホ廃人」と化してしまった

 私はダイヤルQ2の被害にこそ遭わなかったけれども、テレホーダイの罠にはハマった。深夜の11時から翌朝8時まで、廉価で定額利用できるNTTの通話料金サービスである。

 一見便利なサービスに思えるものの、問題はその提供時間。この時間帯にネットをするためには、昼夜逆転の生活とならざるをえなかった。

 案の定、私は、学校から帰ってくると夕食を食べて即睡眠、11時におもむろに起きて、そのまま朝までネット三昧――という典型的な「テレホ廃人」と化してしまった。

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 テレホに備えるためには、授業中の居眠りも辞さず。おまけに深夜食も欠かせないから、肥満一直線。それで深夜に「テレホ廃人」の仲間たちとチャットで、

「これから僕たちの朝がはじまる」

 などと意味不明なことを言い合っていたのだから、まったくどうしようもなかった。

 よく中高生同士(女子含む)でオフ会を開いたり、写真を交換したりしたが、今思えば、よくトラブルにならなかったものだ。当時は、集団で誰かを吊るし上げる蛮習もなかったし、「テレホ廃人」の間で妙な連帯感があった。

2001年のインターネットカフェ ©AFLO

ナローバンド時代にしかなかったスリルと連帯と輝き

 ダイヤルQ2の悲劇も、「テレホ廃人」も、しかし、過渡期の現象だった。やがてADSLや光ファイバーなど常時接続のブロードバンドが普及すると、消えゆく運命をまぬかれなかった。

 最後に、再びQちゃんにお出まし願おう。2003年3月、高校の卒業式でのこと。数カ月ぶりに会ったQちゃんは、大学受験の結果が芳しくなかったようだが、まったく落ち込んでいなかった。それどころか喜色満面で、こう教えてくれた。

「家の回線をブロードバンドに変えた。これでネットサーフィンし放題だ!」

 日本において、ブロードバンドがナローバンドを圧倒するのは翌年のこと。安全で便利なインターネットの時代が幕を明けつつあった。

 これに比べて、かつてのインターネットは実に危険で不便だった。だが、それがすべて悪かったとは思わない。あのころには、独特のスリルと工夫と文化があり、またそれに伴う達成感と連帯と輝きがあった。

 そこに懐かしさを感じる私は、やはりインターネット老人にほかならないのだろう。