「ケーキ」で失敗した友人は退学、サダムの少年軍に入隊した
——本作の物語をうながす「ケーキ」についても、監督自身の体験が反映されていると聞きました。なぜこのテーマを選ばれたのでしょうか。
私は、純粋な「運」のおかげで、友人が辿ったような運命を避けられたことに対し、常に葛藤を抱いてきました。私は運良く「花」を捧げる役に選ばれましたが、友人はそうではありませんでした。彼は「ケーキ」を用意する役に選ばれ、そのケーキを準備することが出来なかったために、後に学校を退学させられ、サダムの少年軍(サダム・チルドレン・アーミー)への入隊を余儀なくされたのです。
彼の運命が完全に変わってしまったという事実は、私が成長する間もずっと頭を離れませんでした。そこから、私の心の中に問いが生まれ始めたのです。「なぜ、あのような不条理に対して誰もが沈黙していたのか?」「不条理に直面したとき、何が道徳的で、何が不道徳なのか?」「冷酷さが蔓延する中で、道徳に価値はあるのか?」私の子供時代の記憶と、こうした問いや思考に対する内なる罪悪感、そして葛藤が、私をこの物語の執筆へと駆り立てたのです。
——私たちのイラクという国のイメージと違い、湿地帯の水上生活、ボートで学校に通うさまなどが大変興味深いものでした。こうした生活を送る人々は、貧しい階層に属するのでしょうか?
残念ながら、イラクの肖像の多くは外国人映画制作者によって作られてきました。そうした描写は国の微妙なニュアンスを切り捨て、ステレオタイプやネット上のリサーチに頼った極めて限定的なものになりがちです。ですから、信頼できる本物の視点は、贅沢品ではなく必要不可欠なものなのです。湿地帯の人々は、6000年前にその地に住んでいた人々と同じ、あるいは似たよう生活様式で暮らしています。彼らはメソポタミアの最初の文明を築いた人々の直系の子孫です。そのため、この場所で撮影すること、そして同時にイラクの多様な風景を見せることが極めて重要だと感じました。湿地帯のアラブ人の経済状況は非常に質素であるとみなされています。彼らにとっての所有の定義は、数隻のボートといくらかの家畜を持つことです。歴史を通じて彼らはそのように生きてきました。彼らにとって最も価値のある財産は、自分たちの伝統、民間伝承、そして湿地そのものなのです。
