ある日、死んだ妻が掃除機になって帰ってきた――。

 奇想天外なタイ映画『ユースフル・ゴースト』は、第78回カンヌ国際映画祭の批評家週間でグランプリに輝いた意欲作だ。

© 2025 185 FILMS, HAUT LES MAINS, MOMO FILM CO.

タイの怪談に着想を得たラブ・ストーリー

 新鋭ラッチャプーム・ブンバンチャーチョーク監督が着想を得たのは、タイの怪談「メー・ナーク」。愛する夫のもとへ、死後に何度も帰ってくる女性の物語である。

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「タイで有名なキャラクターを使うことで、物語がより理解しやすくなると思いました。人間と幽霊の関係を、社会や集団の問題を描くための起点にしたかったのです」

 ホラーやコメディ、ラブ・ストーリーを自在に横断しながら、物語は想像を超える展開へと観客をいざなう。

ラッチャプーム・ブンバンチャーチョーク監督

「タイでは毎月1~2本のホラー映画が公開され、スクリーンは幽霊であふれています。そこで、逆に『もしも幽霊が恐ろしくなかったら?』と考えました。現実と空想の狭間にいる幽霊を通して、大っぴらに議論できない問題も探求できるのではないかと。私は観客の予想を覆し、皆さんを驚かせたいのです」

 主人公の妻・ナットは、現実の社会問題である粉じん公害による呼吸器疾患でこの世を去った設定だ。

「掃除機はタイ語で『粉じんを吸い込む機械』と呼ばれます。“粉じん”という言葉は、文字通りの粉じんだけでなく、政治的には“小さな人々”、つまり力なき人々を意味します。権力者は、そんな人々を簡単に掃いて捨てることができる。では、幽霊と粉じんは、なぜ望まれていないのに何度も戻ってくるのか――それは、彼らがまだ“正義”を得ていないからです」

人間と幽霊の恋愛をクィアなものとして読み解く

 人間と幽霊の恋愛も、監督は「社会から許されないもの」として読み解いた。「クィアの人々が、社会から『愛し合ってはいけない』と長年決めつけられてきたことに重なった」という。

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 タイは2025年1月に同性婚が合法化されるなど、LGBTQフレンドリーな国として知られる。ただし監督は、「国内にはまだ差別が残っている」と話す。

「クィアの子どもは、親からこう言われます。『ゲイでもレズビアンでもいい。あなたが良い子で、役に立つ存在(ユースフル)であるならば』と。この国でマイノリティが受け入れられるには、社会の役に立つ必要があるのだと考えるようになりました」