“左派はもう駄目だという論調の危うさ” イギリス在住のブレイディみかこが語る、「反移民暴動」の深刻な実態

イデオロギーなき「極中」政治

――排外主義がかなり深刻さを増しているんですね。左派政党が骨抜きになった背景として、本書では「極中」(extreme center)という政治的潮流についても掘り下げていますね。

ブレイディ 「過激な中道」を意味するこの言葉は、右でなく左でもなく、またここが重要な点ですが、左右の真ん中に立とうとする従来の中道派ですらなく、権力奪取がその存在目的になったイデオロギーなき政治勢力を指します。これは、1979年の保守党のサッチャー政権以降、18年間敗北を重ね続けた労働党が「なぜ勝てないか」と“大総括会”をやって、社会主義的な政策を捨てたブレア政権にその源流があります。当時のブレアは、地べたの労働者の政党であることをやめて、お洒落で都会的なイメージの、いかにもネオリベ的な左派をつくり出しました。

 それを(先般辞任を発表した)労働党のスターマー首相はそのまま引き継いで、前労働党党首のコービンや映画監督ケン・ローチのような従来型の左派を次々とパージして、自分たちのキャリアパスのためにとにかく勝つことを目的化した政党へと舵を切ったのです。

ブレイディみかこ氏 ©Shu Tomioka

 本来、政治家には「こういう世の中にしたい」というイデオロギーがあるものでした。右派なら「自分たちの伝統的な文化を大事にしたい」、左派なら「格差を是正して貧困をなくしたい」という実現したい社会の理想像があったわけです。ところが極中にはそうした理念がなにもありません。伝統的な中道は、右にも左にも翼を広げて、どちらのよいところも採用して穏便にやろうというものでしたが、極中は穏便さがなく、権力を握ることに対して非常にアグレッシブで、身内をパージしていく寛容性のなさも特徴だと言われます。

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政権の中核にAIを置け?

 最近、ブレア元首相が自らのシンクタンクのサイトに長文エッセイを発表し、労働党に極中回帰を促して話題になりました。彼の考え方は、政権運営の中核にAIを置け――問題は効率的に分析・解決しろ、イデオロギーは一切いらない、というものです。経済発展の足を引っ張るような福祉や環境政策なんて不要だし、移民には厳しい政策をとれ、そしてAIがどんどん使えるように安いエネルギーこそ重要だと考えて、トランプを指導者として評価していると書いたことも話題になりました。

©AFLO

――効率至上主義で、理念がないわけですね。

ブレイディ これはもはや「ラディカルな(急進的な)日和見主義」ではないでしょうか。私自身の経験でいうと、ブレア政権の時代に「外国人の保育士を増やすことが多様性の推進だ」という一大キャンペーンに乗っかって、保育士になりました。

 当時のテレビCMではヒジャブをまいた保育士やアフリカ系、アジア系の保育士と遊ぶ子どもの映像とかが出てきて「あなたも働きませんか?」と呼びかけていたほど。保育士資格取得のためのカレッジの講座が無償で受けられて、そこでは試験のたびに必ず「これがダイバーシティとインクルージョンの概念にどう関連しているか」を書かされました。受講生たちは「ダイバーシティ&インクルージョン地獄」と呼んでいたほどです。

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 たとえば障害をもっている子への教育はどうあるべきか、創造性を育てる保育の環境づくりはどうあるべきか? 試験のテーマはその都度変わりますが、そうした設問に対して所定の文字数で論じさせられ、最終的にはすべてが多様性の問題に収斂した。政府が経済政策としてグローバリゼーションを推進する中で、国策としてそれだけ多様性の概念を徹底していたのです。