極端に保守化するZ世代とマノスフィア
――あと、本書の衝撃的な指摘のひとつは、ネットに広がる「マノスフィア」の政治的影響力のインパクトでした。
ブレイディ トランプ再選にも大きな役割を担ったと言われているのが「マノスフィア」――男らしさや女性嫌悪を推進する、若い世代を中心としたインフルエンサーの緩やかな集合体です。アメリカのZ世代が右傾化し、その多くがトランプに投票したのはマノスフィアの影響によるものと言われています。
マノスフィア的なものは昔から存在していて、90年代ぐらいからずっと言われてきたことではあるんです。日本で言えば「非モテ」とか「弱者男性」とか呼ばれるような問題と似ていますよね。それがいきなり盛り上がって低年齢化したのは、イギリスの場合はコロナ禍以降だと思います。
コロナ禍のロックダウンの時期に、血気盛んな中高生の男の子たちが外で体を鍛えたりクラブ活動ができなくなって何をしたかというと、YouTubeで動画を見ながら家でジムでやるようなトレーニングをし出したんです。アルゴリズムで筋肉増強サプリの案件動画みたいなのにも繰り返しさらされるわけですが、実はそういう商品の宣伝をやっているのはマノスフィア系のインフルエンサーであることが多い。ネットで大きな影響力をもつ「マノスフィア・キング」と呼ばれる人たちは、「男たちをもう一度世界の中心にしろ。女をのさばらせるな」と主張して人気を得ています。
――そんな危険なメッセージに日々さらされるわけですか。
ブレイディ そうなんです。日々そういうコンテンツを大量に浴びて洗脳されてしまう男の子たちも出てきて、社会問題になっています。学校の女性教員に対して女性蔑視的な態度をとる子が増えたとか、母親に対するDVが増えたとか、耳を疑うような言動をする子どもたちが出てきた。青少年に及ぼすマノスフィアの思想的危険性を描いて世界的に話題になったのが、Netflixドラマ『アドレセンス』ですよね。
〈世界29カ国〉Z世代の衝撃の統計
――確かにあのドラマは衝撃でした。
ブレイディ あのドラマを見て、最近うちの子どもの言動が変わったが、自分の部屋でそんなものを見ていたのかと絶句した親が相当数いたと思います。一番象徴的なのは、女の子を殺してしまった男の子のお父さんが言うセリフです。「昔の親は子どもが夜遊びに行くと心配したけれど、自分の部屋にいる限りは安全だと思っていた、でも実はそここそが危険な場所だとは思わなかった」と。
いま若い世代の一部の男子が極端に保守化しているというのは、イギリスの親御さんたちが共通してもつ感覚だと思いますが、マノスフィアのインフルエンサーたちは、「女は家庭のことをやって、子を生んで、家を守るために存在する」という家父長制を絵に描いたようなことを言います。まるで、女性の権利が数世紀戻されてしまったかのようですが、世界的に若い世代の男性が保守化している背景には、マノスフィアとSNSの強い影響があることは否めません。
実際、統計的にも、キングス・カレッジ・ロンドンとIpsosの共同調査では、英国、アメリカ、ブラジル、オーストラリア、インド、日本など世界29カ国で、Z世代(1996~2012年生まれ)の男性の31%が「妻は夫に従うべきだ」と考えています。ベビーブーマー世代(1946~1964年生まれ)は13%に過ぎないのに。また、Z世代の男性のほぼ4分の1(24%)が、「女性はあまり自立しているように見えたり、自己完結しているように見えたりするべきではない」と考えているという衝撃的な結果も発表されています。

