ブレイディ おじいちゃんが差別的な発言とかするたびに、若い子たちから「それは間違っています。最新の統計ではこうです」とか怒られたりするんですね。でも、そんなおじいちゃんも、貧困の人たちを助けたいという思いは強いので、倉庫から荷物を運んだりパントリーに来る人の対応をしているうちに、だんだん若い人と仲良くなる。

――どう変わっていくんでしょうか。

ブレイディ 例えば、フードパントリーには生理用品も置いてあるんですが、いろいろな人がやってくる中で、女性が取りにくそうにしているのを見て、そのおじいちゃんが「衝立を立ててエリアを分けた方がいいんじゃないか」と言い出したんです。私たちはびっくりして、「あ、この人はちゃんと女性の靴を履いているんだ」と。そして、最初の頃は移民の私に目も合わせなかったのに、シフトを重ねるうちにだんだんジョークを飛ばすようにもなってきたんですよ(笑)。

 SNSの世界では修復不可能に見える政治的な亀裂も、顔を突き合わせて一緒に仕事をしていると、ぜんぜん違う融和的な世界が広がっていくことを日々実感しています。

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 身体性のある世界に広がる天国感

――ひとつ希望となるエピソードですね。

ブレイディ 本当にリアルな人間関係は、また別世界なんです。SNSのアルゴリズムの世界では、恐怖と憎悪がどんどん増幅されて、互いに修復不可能なところまで分断してしまう。最初のスターマーの話じゃないけれど、一度嫌われたらとことん嫌われて、極端なところまでいきがち。そんな負の感情ばかり増幅される世界では、もう全部ぶち壊してしまえという加速主義にまで行ってしまう。

 でも、身体性のあるところには真逆の世界が広がっています。顔を合わせて付き合っていくうちに、お互いにだんだん物の言い方も変わるし、こういう思想の持ち主だけどこの部分は優しいね、とか、壁を乗り越えていける余地が出てくる。最初はみんなSNSの世界を引きずって、反目し合うんですよ。でも、「ちょっとこれ運んで」とか「子どもと一緒に遊んであげよう」とか一緒に仕事をしているうちに、時間をかけて少しずつ変化していきます。

 SNSのアルゴリズムで極端に引っ張られていく世界と、顔を突き合わせて普通に付き合っているリアルな世界の落差が、今どんどん大きくなってきている。SNS空間が殺伐とすればするほど、後者の人と人が助け合う世界が天国感を増しているように私は感じています。地べたで身体性を取り戻して対話することは、壊れゆく世界への抵抗の糸口になると信じています。

それはどこでも起こり得る 壊れゆく世界への抵抗

ブレイディ みかこ

文藝春秋

2026年7月15日 発売

INFORMATION

『それはどこでも起こり得る』刊行記念
ブレイディみかこ×eri
「“壊れゆく世界”で声を上げる」

8月25日19時~ 代官山蔦屋書店にて
詳細 https://store.tsite.jp/daikanyama/event/humanities/55275-1706470625.html

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