「宗教2世」の「朗読詩人」のドキュメンタリー。興味はありつつ、でも「詩」って巧緻で強力な心理の罠を駆使してくるカルトに対峙するには弱くない? そんな余計な心配を胸に調査して参りました。果たして結果は!?

今週のターゲット『詩人iidabii ある宗教2世の記録』

〈あらすじ・概要〉「宗教2世」として生まれ、やがて信仰とも家族とも決別したiidabii(イーダビー)。自らの苦悩を言葉に託して叫ぶ活動を続ける彼の姿を2022年からの3年間にわたって追ったドキュメンタリー。松井秀裕、津田友美監督。104分。全国順次公開中。

 

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 朗読詩人。こう聞くと、静かな声で淡々と詩を読み上げる人を想像するかもしれませんが、「ポエトリースラム」(80年代にアメリカで生まれた、自作の詩の朗読による芸術競技イベント)では、いかに観客の心を動かすかに重きが置かれているため、そのパフォーマンスもフィジカルかつダイナミックなのが特徴。本作の主人公であるiidabii氏の場合は吃音というハンディキャップを抱えながら、詩を叫ぶように朗読するシャウト系です。とはいえ感情の高ぶりを無軌道に爆発させるタイプではない。朗読時の勢いと「自在感」は、吃音があったことをほとんど感じさせません。むしろ聞きやすい、魂の重量感を存分に感じさせるシャウトなのです。まず、そこに驚かされました。

 では、彼は何を叫ぶのか? iidabii氏は、「エホバの証人」を信仰する母のもとに生まれた、いわゆる「宗教2世」。ここ数年、彼らの葛藤や軋轢、心の傷を扱ったルポルタージュを目にする機会が増えましたが、彼の詩のテーマもまさにそれ。ただし、この問題が世間から注目されるようになるずっと前から、活動してきたことが紹介されていきます。幼少期から教義と家庭の圧力がのしかかる環境で育った彼が、母に反発したのは15歳。路上の弾き語りから、18歳で詩の朗読パフォーマンスへ。

 ある種、ひとりの若いアーティスト紹介のような本作。そこで私は気づく。iidabii氏がカルト被害者の中でも並外れた表現力を武器として持っていること。その背後に同様の悩みを抱えながら「世間に届く声を持たぬ」人たちが大量に存在すること。彼自身、自覚的に彼らの魂を背負って活動している、ということに。だから自らのトラウマの根源たるエホバの証人の日本支部正門前で、堂々と単独シャウト朗読による抗議活動を行うのです。個人の闘いだが、実はみんなの闘いでもある。しかし、ゆえに彼に苦悩からの解放はない。ううむ、重い!

 さらに、国会などでほかの宗教2世たちと被害実態を証言する姿も。中心となるのは親からの直接/間接的な暴力ですが、その親の認識として「このままだと我が子は地獄行きだ。何が何でも矯正しないと!」的なパターンが多いのが憂鬱。それは中世の異端審問官の「邪宗徒は地獄に落ちる! ゆえに涙を呑んで」凄まじい拷問を加えて改宗を迫った、という史話に極めて近いです。この加害者側の言い分はけっこう怪しい。どこからか嬉々としてやっている気配がある。それがカルトだといえばそれまでですけど。

 やがてiidabii氏は父になります。幸せな家庭をイメージできなかった不安が、我が子との初対面で吹っ飛んだと語る……けど、次に来たのは激しい落ち込み。親になったゆえに揺らぐ母への思い。許せないのに許さないといけないのか? 家族って何だろう?

 彼の妻へのインタビューも秀逸でした。夫が絶縁している母親と「敢えて」会っているという。その時、妻の目に映ったモノが怖い。加害者は、怪物の顔をしているとは限らない。むしろ普通の母親の顔をしたまま、家族の中に居座り続けることもあるのです。

 iidabii氏はそれでも叫ぶ。叫ぶしかない。

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