2005年、ある建築士が偽装を行い耐震基準を満たさないマンションを建てていたと明らかになった事件。購入者たちは耐震偽装の事実に加え、周辺住民からの非難など“2次被害”にも悩まされていた。

 7月に『炎と水 中村哲と名もなき人たちの旅』で第48回「講談社 本田靖春ノンフィクション賞」を受賞した作家・山岡淳一郎氏の新著『マンション 狙われる修繕積立金 談合・なりすまし・外部管理者』(平凡社新書)から一部抜粋して、当時のようすをお届けする。

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「さっさと解体しろよ!」マンション購入者を襲った“2次被害”

 2007年2月下旬の夜、私は、東武線浅草駅から鈍行に乗り、しばらく揺られて小さな駅で降りた。沈丁花の香りが漂う家並みを抜け、耐震偽装事件に巻き込まれて公営住宅に仮住まい中の区分所有者を訪ねた。その人が暮らしていたのは、ヒューザーが分譲した全40戸ほどのマンションだった。

 この夜、地域の集会所で、被害マンションの管理組合が、周辺の住民への「近隣説明会」を開いていた。説明会が始まると、いきなり男性の怒声が会場に響きわたった。

「あんたたちは安全な場所に逃げて、こっちは、いつ建物が地震で倒れてくるかと、毎日、びくびくしながら暮らしてるんだ。さっさと建物を解体しろよ」

 情け容赦のない罵声が、たまたま偽装マンションを買った人たちに浴びせられる。

「みなさんには大変ご迷惑をおかけしています。われわれも1日も早く解体してほしいと行政にずっと言いつづけてきました。でも、『マンション建替え円滑化法』という法律にそってやる、手続きに時間がかかる、の一点張りでした。ようやく手続きが整い、建替組合の設立が東京都から認められました。もうすぐ解体に着手します。どうか、もうしばらく、ご協力いただきたく、お願い申し上げます。この地域で、一緒に生活をさせてください」

 管理組合の理事が深々と頭を下げた。しかし、周辺住民の怒りは収まらない。

「また大騒音の建設工事が始まるなんて、耐えられない。解体したら更地にして、どこかへ行ってください。これ以上、騒がせないで。建て替えで騒音をたてるのなら、工事の差し止め請求をします」

 とげとげしい言葉が被害者の心に突き刺さる。