「人生に間違いなんてない」と高らかに歌う『わたひか』

児玉:忘れないうちに『わたひか』の話をしましょう!(笑)

金子:そうですね(笑)。今年の4月に出た6冊目の単行本で、青春ガールズバンド小説です。主人公は瑞葉(みずは)という女性で、高校入学直後にクラスメイトの朝顔(あさがお)に誘われて女子4人のバンド〈さなぎいぬ〉を結成するところからスタートします。15歳から20歳まで瑞葉がバンドに属していた時間軸と、26歳現在の大人になった瑞葉の時間軸とを行き来しながら進む小説です。

私たちはたしかに光ってたんだ』書影

児玉:私が『わたひか』で一番好きだったところは、たくさんの「普通」をかけがえのないものとして書いていること。小説家もある意味そうなんですが、ステージに立つ仕事をしている人がその仕事を辞める、つまりステージを降りるとき、「普通の世界に戻る」という表現をされることがあるじゃないですか。ずっとその表現に違和感がありました。「普通の世界」と言うけれど、実際は「普通」という言葉では片づけられないくらい多様で、複雑で、色とりどりで。この小説は、その「普通」と言われる世界の多様さと豊かさをすべて肯定しているんですよね。そこが好きです。単純化せず、そのうえでその人生に「間違いなんてない」ということが高らかに書かれているのがよかったです。

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金子:ありがとうございます。うれしいです。

児玉:気になっていたことが一つあります。小説冒頭でバンドの各パートを体のパーツでたとえるシーンがあるじゃないですか。ボーカルが「顔」でギターが「腕」、ドラムが「脚」でベースが「心臓」。とても単純に考えたら「心臓」はビートを打つもの、つまりドラムにすると思うんですよ、鼓動のイメージで。ベースを「心臓」にしたのはなぜなんですか?

楽器を手で触る感覚が文章に

金子:中学のころ、友達とバンドの各パートを身体でたとえたら何になるかという話をしたことがあったんです。ベースって聴こえにくいじゃないですか。ライブ会場に行くと音が大きいから聴こえるんですけど、CDや音源だとかなり意識しないと聴こえない。

児玉:特にJ-POPのベースは音量小さいですよね、これは根深い問題です。

金子:ドラムは打楽器だから他の音の中でも目立つんですけど、ベースは聴こえにくい。でも、ベースがないと音楽として成立しないじゃないですか。見えないけど必要という意味で「臓器」なんです。