児玉:そうか、「臓器」としてだったんですね! 単純に考えたらドラムだろうとさっき言ったんですけど、これは金子さんの考えに異議を唱えたいとかじゃなくて。頭の中だけで考えたらドラムを「心臓」としちゃいそうなところをしないのは、金子さんが楽器を触ったことがあるからだなと思ったんです。

 これは具体的な話というよりは漠然としたイメージの話なんですが、小説家の方が音楽について書くときって、コード(和音)や和声の話が多くなる印象があって。音楽理論は身体性に依存しない小説と相性がいいのだと思います。

『わたひか』の描写ってそれとちょっと違うんですよね。たとえば「オクターブ奏法でぐりぐり八分音符を鳴らしていく」という表現が作中にあるんですが、「ぐりぐり」という表現から、金子さんはベースを演奏したことがあるのかな、と感じました。弦が太いから力がいるし、音自体もそういう感じがある。理屈ではなく、手で触った感覚から来ている表現なのかなと。

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金子:実は、ベースは今作を書き始めるときに初めて買って練習したんです。もともと高校のときに1年間バンドをやっていたんですが、そのときはギターボーカルだったのでベースを触ったことはありませんでした。小説の構成を考えるうえで、「心臓が取り替えられる」というイメージを書きたかったから、主人公の担当楽器はギターではなく絶対にベースじゃないといけなかった。だからベースを買って、チャットモンチーの「シャングリラ」が弾けるようになるまで練習しました。

注:『私たちはたしかに光ってたんだ』作中で、主人公の瑞葉が所属するバンド・さなぎいぬは初めてバンドで演奏する楽曲としてチャットモンチーの「シャングリラ」を選んでいる

児玉:えっ、そこまでやったんですね。

金子:瑞葉が初心者としてベースを始めて「シャングリラ」をある程度弾けるようになるまでの過程は、私が経験した同じプロセスを基に書きました。

「シャングリラ」をみんなで初めて演奏するシーンについて「臨場感がある」と言っていただくことが多いんですが、あのシーンを書くときはパソコンの前に座って、太ももにベースを置いて、音源を聴きながら自分でも弾いて、音源を止めて書いて、弾いて書いて、弾いて書いてって繰り返しながら書いたんですよ。

児玉:すごい! だから身体表現が豊かだったんですね。他にも、作中に登場するライバルバンド「シグナルズ」のボーカル・赤眼鏡こと七海(ななみ)のセリフも印象的で。コードで難しいことをしているけど、何よりメロディーがいい、という評価の仕方をしていて、あそこ、読んでいてすごく唸りました。

 音楽クレジットでは、メロディーを書くのが「作曲」で、コードや楽器の組み合わせなど、鳴っている音を調整するのが「編曲」と分けられます。これは作・編曲両方で仕事している方に言われたのですが、コードワークを含めた編曲は、いろんな知識が必要でむずかしいものでありながら、ひとつひとつ勤勉に学んでゆけばある一定の水準まで磨かれる領域だと言われました。一方メロディーを書く「作曲」は、その実、才能や瞬発力としか呼べない領域もあると話してもらったことがあります。だから七海のそのセリフは、ちゃんと音楽を、作曲をやり続けてきた人ならではの言葉だと思いながら読みました。

金子:ありがとうございます! ちなみに、そんなシグナルズの七海を主人公に据えたスピンオフ掌編「信号」がWEB別冊文藝春秋にて公開中ですので、皆さまこちらも是非!

左:児玉雨子さん 右:金子玲介さん

金子玲介(かねこ・れいすけ)
1993年神奈川県生まれ。慶應義塾大学卒業。『死んだ山田と教室』で第65回メフィスト賞を受賞し、2024年単行本デビュー。「2025年本屋大賞」にノミネートされる。著作に『死んだ石井の大群』『死んだ木村を上演』『流星と吐き気』『クイーンと殺人とアリス』がある。26年4月、最新作『私たちはたしかに光ってたんだ』を刊行。

児玉雨子(こだま・あめこ)
作詞家・小説家。神奈川県出身。アイドルグループ、声優、テレビアニメ主題歌やキャラクターソングを中心に作詞提供を行う。2021年に小説『誰にも奪われたくない/凸撃』(河出書房新社)を刊行。2023年に『##NAME##』(河出書房新社)が第169回芥川賞候補作にノミネート。同年に文芸エッセイ『江戸POP道中文字栗毛』(集英社)、2025年に『目立った傷や汚れなし』(河出書房新社)を発売。

私たちはたしかに光ってたんだ

金子 玲介

文藝春秋

2026年4月9日 発売

次の記事に続く 「ひどい世の中だからこそ〈光の作家〉を目指しましょう」小説家の金子玲介と作詞家・小説家の児玉雨子が“愛と希望を叫ぶ作家”舞城王太郎から受けた影響とは