剥がされた貼り紙
永守氏に批判的な株主の質問に対して、岸田社長は「1人の理由で今回のことが起きたとは思っていない。組織風土を自分たちの手で変えていく」と答えた。しかし、不祥事を誘発した組織風土は、創業以来、永守氏が構築してきたものに他ならない。このため、ニデック社内ではいま、「永守色」を社内から払拭しようとする動きが加速している。
ある幹部が打ち明ける。
「会議室の壁には、永守氏が掲げた経営理念や生産性の向上などを目指す言葉の書かれた貼り紙がありました。そのほとんどが剥ぎ取られ、白く跡が残る壁を見るにつけ、経営体制が変わったことを感じます」
さらにニデックは、本社近くに計画していた「永守重信創業記念館」の建設も中止を検討している。
一方で、こんな社内の声もある。
「今年2月に永守氏の名誉会長辞任が発表された後、社内で泣いている社員も何人かいた。カリスマ創業者の影響力を完全に排除するには、まだ時間がかかるだろう」
かつて永守氏が経営トップの時代に株主総会で「うちのOB会の平均個人資産は10億円ですよ」と豪語したことがある。過去、ニデックは株式分割を繰り返しながら株価を上げてきた。「失われた30年」に時価総額を増大させた企業は、1位がトヨタ自動車、2位が計測機器大手のキーエンス、3位がニデックだとされる。昔から社員持ち株会に入るなど株を保有していた社員の中に、莫大な資産を築いた「株式長者」がいることは想像に難くない。
※この続きでは、「永守式経営の妄信」を招いた組織風土のエピソードを紹介しています。
約7000字の全文は、月刊文藝春秋のウェブメディア『文藝春秋PLUS』と『文藝春秋』2026年8月号に掲載されています(井上久男「永守重信、稲盛になれなかった男」)。

