文藝春秋の女性誌「CREA」の星占いを見て、ぼくは小説を書くようになった。重圧の星・土星が牡羊座に入る。その2年間で自分のなかにある何かを結晶化させると、新たな人生が開ける。巻末に載っていた短い占いを読んで、翌日から小説を書き始め、土星が抜けた2年後には最初の本が書店に並んでいた。編集者の間ではそこそこ有名なエピソードで、お陰でこの魔法のように魅力的な対談の書評が回ってきたのである。
最初に結論からいこう。占星術と臨床心理学にわずかでも興味関心があるなら、迷わずすぐにこの本を読んだほうがいい。ぼくは書評でお世辞はいうけれど、嘘を書くことはない。今年のベスト10に当然入ってくる本なので、「鉄板」でオススメします。どのジャンルに分類したらいいのかわからない鵺(ぬえ)のような本だけれど、現代ははっきりと誰にでもわかるジャンルのなかにはいい本がさっぱりない時代だ。
対談をしているのは、占星術界随一の理論派にして、善なる白魔術師のイメージ薫る鏡リュウジと、気鋭の臨床心理士でありエッセイストとしても名高いライジングスター東畑開人。意外なことにこのふたりは長らく飲み友達だったという。だが、ふたりの会話に甘さは欠片もない。真剣勝負に終始するのだ。占星術のなかにある「科学・象徴」と心理学のなかにある「呪術・聖なるもの」を、互いに探しあうスリリングな丁々発止が最後のページまで続くのである。
普通の常識では、星占いと臨床心理学はまず結びつかない。だが、人にいえない問題を抱えてやってきたクライエントに対し、ある種の「テクニック」を用いて心的交流を図り、開かれた納得感や腹落ちを生みだすという意味では、実はよく似た仕事でもある。心理士や占い師が相手から神のように崇められたり、一方的な恋愛対象になるのはめずらしいことではない。日常生活では考えられないような心的深度に達した場を閉じるには、時間厳守が大切で、金銭の支払いをもって完了を意識づけるのも共通だという。
臨床心理学でレジェンドになる人は新しい文体をつくる人で、症例報告が異常に上手い。ある学者は「沢木耕太郎を真似てる」といっていた。とか、占い師の多くが全能感に浸って権威的なヒーラーになり、誰にも相手にされず死屍累々の惨状をさらす。とか、業界のなかにいなければわからない細部も忘れがたい。占いを盲目的に信じるスピリチュアル派と全否定する科学絶対派に読んでもらいたいけれど、両極には届きにくい良心的で穏やかな対話による冒険であるといっておこう。
最後はこの本で度々言及されるユングが残したという言葉で締めておく。「占星術は5000年の歴史を持つ心理学である」。さて、赤線だらけの本を置いて、書店でよく見かけるタロットカードでも買いにいこうか。
かがみりゅうじ/占星術研究家・翻訳家。京都文教大学客員教授。著書に『タロットの秘密』ほか。
とうはたかいと/臨床心理士・公認心理師。白金高輪カウンセリングルーム主宰。著書に『カウンセリングとは何か』ほか。
いしだいら/作家。『4TEEN』で直木賞、『眠れぬ真珠』で島清恋愛文学賞、『北斗 ある殺人者の回心』で中央公論文芸賞を受賞。
