「元々興味があった『時間』の概念に『子育て』を掛け合わせるという思いつきが発端でした。私の子育ての経験を小説にちりばめるという目論見もありましたね」
数学に青春を賭けた高校生の姿を描いた『青の数学』で知られる王城夕紀さん。新作SF小説『バイ・タイム 整時士佐藤スバルの哀切』は、時間が歪む異常現象〈渦〉が頻発する世界を生きる父と子の物語だ。
「これまで頭脳戦を題材にした小説を多くの方に読んでいただきましたが、今回は毛色を変えてみようと。ジャンルはSFですが、フーダニット&ホワイダニットの特殊設定ミステリーとしても楽しんでほしいです」
その挑戦は、書名に込められた王城さんらしい遊び心からも感じられる。
「時間にまつわるお話なので『タイム』を入れたのは、数学をテーマにした『青の数学』と同じやり方です。そして『バイ・タイム』には『余暇』や『時間を稼ぐ』という意味がある。さらに『バイバイ』の『バイ』と捉えると『さよならの時間』『時間に別れを告げる』とも読めます。ポップでいて、たくさんの意味になります」
2年前、次元と時間を超越した地球外生命体“OT”と人類の衝突によって発生した災害〈大時震〉。この災害で妻を失った佐藤スバルは、遺された6歳の息子・ハルキを男手一つで育てることに。実はハルキにはOTが“絡まって”おり、ハルキを介してOTと会話し、〈渦〉の発生を探知できるようになった。OTからハルキの身体を取り戻すため、スバルはその力を借りながら〈渦〉の原因究明と解消にあたる公務“整時士”として働き始める。
「親と子を描くことにフォーカスするうちに、自然とシングルファザーという設定になりました。子どもというのは成長するにつれて親にとって未知の存在になっていくんです。それを表現するために、OTとハルキの設定が出来ました」
〈渦〉は「明日が来てほしくない」や「早く時間が過ぎてほしい」といった強い願いによって発生し、時には街全体を巻き込んで同じ1日を繰り返させる。本書に登場する、三者三様の悩みを抱え、〈渦〉の中心となった子どもたち。スバルは〈渦〉の内部を調査して原因を突き止め、カウンセリングのようにそれぞれの気持ちに向き合い、彼らの心を解きほぐしていく。
「冒頭のハルキがおしゃべりに夢中になって朝ご飯を全然食べてくれないシーンなんかは我が家の実話なんですが、ハルキ以外の子どもたちの周りにも、子どもあるある、育児あるあるをふんだんに入れ込みました」
不安を解消して成長するのは子どもだけではない。慌ただしい毎日の中でハルキとの接し方に悩んでいたスバルもまた、たった一人の家族と過ごす大切な時間について考えを深めていく。その背景にあるのはやはり、王城さん自身の経験だ。
「今うちの子は9歳なんですが、赤ん坊の時は世話しないと死んじゃうという不安ばかりでした。でも成長すると、子どもの社会で上手くやっているのかとか、親の悩みも変わってくる。前は早く子育てのゴールを迎えたいと思っていたのに、今は子どもが数日出かけただけで、何もやることが思いつかないぐらい子ども中心。一方で、赤ちゃんの頃に1日10回オムツを替えてたこととか、『こんなにしんどいんだから絶対忘れないだろうな』と思っていたことさえ忘れつつあるんです。現在子育て中の方はもちろんですが、かつて我が子の手を握ったことがある方も、これを読んでかつての経験を思い出していただけたら嬉しいです」
おうじょうゆうき/1978年、神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。2014年、「天の眷族」でC★NOVELS大賞特別賞を受賞。同作を『天盆』と改題し、デビュー。他の著書に『青の数学』『マレ・サカチのたったひとつの贈物』『ノマディアが残された』など。
