夫の名前を忘れ、被害妄想にとらわれて困惑する51歳女性。当初は精神病や単なる老化と思われたが、彼女の死後、脳を顕微鏡で調べて判明した「本当の病名」は……。

「糖と脳」の専門家として知られる医師・下村健寿氏の新刊『糖毒脳 いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』(ダイヤモンド社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/続きを読む

写真はイメージ ©getty

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「被害妄想」にとらわれた、ある女性患者

 いまからおよそ120年前。ドイツのとある精神科病院に、奇妙な症状を訴える51歳の女性が運び込まれました。

 後にその名を歴史に残す、このアウグステ・Dという女性は、夫の名前を忘れ、被害妄想にとらわれ、「私は迷子になった」と繰り返しつぶやきました。その症状は単なる「老化による物忘れ」とは明らかに異なり、医師たちを困惑させました。

 アウグステ・Dの主治医は彼女の症状に関心を抱き、毎日時間をかけて診察し、詳細な記録を取り続けました。彼女は感情的になりやすく、混乱して同じ質問を何度も繰り返す。医師の質問に答えるかと思えば、突然意味不明なことを口走り、ときには「私は自分を失ってしまったの」と悲しげに語ったといわれています。

 そして1906年、アウグステ・Dは亡くなります。主治医が彼女の脳を顕微鏡で詳細に調べたところ、驚くべき光景を目にしました。