語らなかった父

 野口さんは、墓の下から突然現れた木箱いっぱいの瓦礫の中から、骨が混ざっている欠片を注意深く取り出し、一つ一つ新しい骨壺に移した。骨壺は、神戸に用意した新しい墓に納めた。広島で掘り出された遺骨は、東京―松山―神戸と流転したことになる。

変形した眼鏡や残骸と一体化した頭蓋骨(著者提供)

 ただ野口さんは、先の三つの「塊」だけは自宅の仏壇に置いた。このまま地下に埋めるのはしのびない、忘れ去るわけにはいかない、そう思った。

 父の弔いの行事をひととおり終えてから、野口さんは実家の整理に取り掛かった。父の荷物を片付け始めたとき、押し入れから、丁寧な墨字で綴られた紙の束がドサッと出てきた。父の筆跡だった。

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一発の原子爆弾は正確な数もわからないほどの犠牲者を生んだ ⓒ文藝春秋

 綴られていたのは、一家全滅という非業の死を遂げた4人の足跡。祖父と祖母、叔父と叔母、8月6日に4人が広島市内に留まらねばならなかった理由も記されていた。他にも、父が骨を掘り起こした日、東京の親戚に宛てて書き送った葉書や戦時中の写真、折々のメモ、終戦直後から書いた数年分の日記もあった。野口さんは我を忘れて読み入った。

今も引き取り手のない遺骨が約7万人安置されている平和公園 ⓒ文藝春秋

「全くと言っていいほど語らなかった父ですが、語らないからといって、忘れたわけではなかった、むしろ逆だったのでしょう。誰かに伝えたかった、だからこうして書き残したんだなと。これを読んだ瞬間、強い衝動にかられました。自分に繋がる人たちに何が起きたのかくらい、僕は知らなきゃならないんじゃないかと」

※本記事の全文(約10000字)は、月刊「文藝春秋」8月号と、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(堀川惠子「『異形の原爆遺骨』ヒロシマ81年目の真実 前編」)。 全文では、下記の内容をお読みいただけます。
・父は「第二国民兵」だった
・阪神大震災で「新型爆弾が落ちた!」
・原爆投下、前夜の家族

文藝春秋

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「異形の原爆遺骨」ヒロシマ81年目の真実 前編

出典元

文藝春秋

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