日本の手話か国際手話か

 黒柳さん本人も映画に登場する。手話の魅力を知った経緯についてインタビューで答えている。50年以上前、あるミュージカルに出演した際、アメリカで手話の劇団を運営しているスタッフと知り合ったのがきっかけだという。その劇団ではみんなが手話で話をしていた。

「手話がとってもいいって。手話を勉強すれば3日で日常会話が話せる、1週間あったら哲学も話せる。世界中の人が共通の手話ができたら、どこの国の人ともこうやって手でお話できるのになって思ったんですけど……やっぱりなかなかそうはいかないですけどね」

藤井秀剛監督 ドキュメンタリー『心耳(しんじ)~耳を澄まさぬ表現者たち~』

 実は手話も国や地域によって異なり、世界で400種類以上あると言われる。手話狂言では日本の手話を用いるが、海外の人により分かりやすくするため、ろう者の国際会議などで使われる国際手話を使ってはどうか? そんな狙いで2年前、フランスでの公演で国際手話に初めて挑戦した。ところが思ったような反応はなく、むしろ「今さら国際手話で狂言やったんだぁ」という醒めた見方をされたという。日本ろう者劇団の代表、江副悟史さんは手話で語る。

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江副悟史さん ドキュメンタリー『心耳(しんじ)~耳を澄まさぬ表現者たち~』

「日本の文化から派生して生まれたのが日本の手話です。それと伝統文化である狂言の融合はとても相性がいいと思います。そこに外国文化の国際手話を入れ込むと狂言という伝統文化とかみ合いません」

ドキュメンタリー『心耳(しんじ)~耳を澄まさぬ表現者たち~』

 ではどうすべきか? 手話狂言は生まれて半世紀近くがたち様々な課題に直面している。狂言をはじめ伝統芸能自体も今後のありようを問われている。映画はそんな当事者たちの試行錯誤を描きながら、手話狂言の舞台や、舞台裏の稽古をじっくりと見せる。

吊り目のしぐさが「日本」を意味していた

 終盤で再び黒柳さんが登場する。海外では日本のことを手話で表現する時、小指で目尻を吊り上げるしぐさをしていた。これは東洋人に吊り目が多いという偏見に基づく。去年、ミス・フィンランドが吊り目画像をSNSに投稿し激しい批判を浴びたことは記憶に新しい。黒柳さんはこの吊り目の手話に抗議し、別の方法を提案した。

「私たちは日本の形(両手で弧を描く)をやってジャパンってやってた。こういう風にしてくださいって言ったの。(そしたら)アメリカのろう者劇団がジャパンをこう(求め通りに)やったので」