『ディスカバード・ジャパン』(大木茂 著)

 このたび大木茂さんが上梓した『ディスカバード・ジャパン』は、B5判のフルカラー、手に取るとずっしり重みが感じられる512ページの大著だ。北海道から鹿児島まで鉄道沿線約300地点で撮影した900点超もの写真が収められている。「10年掛かりました」と、大木さんは感慨深そうに語るが、実際にはもっと長い時間――半世紀以上の年月が凝縮されている。

 例えば「1963年」に撮影された写真の隣に、同じ場所、同じ角度で「2023年」に撮影された写真が並ぶ。前者は滅びゆく蒸気機関車に魅せられた“鉄道少年”が16歳から大学卒業までの間に日本中を旅しながら撮りためたもの。勢いよく黒煙を吐き出す威容には迫力があり、機関車が走る原野にはモノクロながら彩りと情緒が感じられる。一方、新撮のカラー写真はどこか表情に乏しい。

「古希を目前にしてふと思いついたのが、かつて機関車を追いかけてまわった場所を再訪してみようということでした。大学卒業後は、しばらく鉄道からも離れていたので、変化を見るのが楽しみだったし、自分自身がどんな気持ちになるのかにも興味がありました。だけど、いざ始めてみたら、辛くなってしまって……」

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 懐かしい路線は廃線になり、賑やかだった駅からは人が消え、炭鉱町は寂れ、さらに原野や森の姿も様変わりしていたのだ。

「ごく個人的で、センチメンタルな旅になるはずだったんです。ところがだんだん憤りのほうが大きくなっていきました。どうしてこうなってしまったのだろう。あの美しい景色はどこへ行ったのか。だいたい、日本は豊かになったと言われているが、本当にそうなのか。こうして写真に撮って見比べてみると、完全にメッキが剥がれた(ディスカバード)と感じました」

大木茂さん 左:1963年3月、右:2026年2月(撮影:原島康晴)

 そんな大木さんがカメラと出会ったのは小学生の頃。目の前の光景が1枚の紙に焼き付けられる不思議に惹かれた。また写真撮影を理由に、あちこち旅もした。

「旅に出れば、いつだって自分の知らないものに出会えますから。若い頃は駅舎にこっそり寝るような貧乏旅も(笑)。まあ、今回も似たようなものです。ちょうどコロナ禍とも被っていたので基本は車中泊。車内で一人、その日撮った写真を整理したり日記を書いたり、沈んでいく夕日を眺めながら酒を飲んだり。ただ、北海道の冬の寒さはこたえましたね。でも、そういうのも含めて自然の中で過ごす時間が好きなんです」

 おのず人より自然にカメラを向ける機会が多かった大木さんだが、今回の旅を通して自分が親しんだ自然の姿は、人の営みがあってこそのものだと気づいた。

「人が山に入って柴を刈っていたからこそ、保たれていた景観があった。それがなくなって廃れた山里をいくつも目にして、いろいろなことを考えました。日本の産業発展の代償に失われた多くのものについて。あの人たちはどこへ行ってしまったのか。今、僕たちが目を向けるべきものは何か。本書には、旅の思い出や撮影の記録とともに、そんな思いも綴っています。少々率直すぎるくらいに」

 なるほど鉄道写真集と見せかけて実はそうじゃないのですね、と指摘すると、大木さんはニヤリと笑った。

「僕は“写真家”と言われるのは嫌いなんです。僕の写真は芸術作品じゃなくていい。むしろ多くの情報を伝えるためのものでありたい。一つでも多くの発見と示唆を与えたい。これは、そんな“写真屋”の思いが詰まった本なんですよ」

 実は、エッセイの名手でもある。まさに“読みごたえ”のある一冊だ。

おおきしげる/1947年東京都生まれ。写真撮影業。早稲田大学理工学部卒業後、フリーランスで週刊誌や月刊誌、書籍の写真ページのほか、映画のスティル写真なども担当。著書に『ヨーロッパ 汽車の旅』『汽罐車─よみがえる鉄路の記憶』『ぶらりユーラシア』など。